ワークショップ 声優演技研究所 diary

「なんで演技のレッスンをしてるんですか?」 見学者からの質問です。 かわいい声を練習するのが声優のワークショップと思っていたのかな。実技も知識もどっちも大切!いろんなことを知って演技に役立てましょう。話のネタ・雑学にも。💛

学校と勉強はきらい

文学の泉 Part 4

作家の萩原葉子さんのお話を紹介させていただきます。

学校と勉強はきらい

わたしは子どものとき、早くおとなになりたかった。おとなになれば学校に行かなくてもよいし、勉強もしなくてすむ。学校と勉強が、いちばんきらいだった。


わたしは小学校を三度転校したので、友だちはひとりもできなかったので、話し相手もなく、いつもひとりで、口をきかなかった。無言の行(むごんのぎょう)さんと言われ、変わった生徒として見られていた。


両親の離婚でわたしは父方の祖母に育てられていたが、祖母は、「孫ほどにくいものはない」と、わたしにつめたかった。にくい嫁(わたしの母)の生んだ子どもだからである。


祖母は一日じゅうわたしをいじめていた。


父(萩原朔太郎)は詩人で名前は少しは知られていたが、詩では生活力がなく、祖母が実権をとり、わたしにはブラウス二枚、スカート一枚のほかは買ってくれないうえに、ごはんのおかわりも禁じられていた。


女学校へ入って楽しいことや、勉強がおもしろいことは何ひとつなかった。先生の生徒を見る眼は「刑事」の眼であった。


廊下ですれちがう上級生たちは、なぜかわたしに意地悪で、祖母と同じように「色黒のシコメ(不美人)。出目金」などといじめた。クラスでもわたしを「変わっている」と、相手にしてくれなかった。


一日じゅう口をきかないで家に帰ると、今度は祖母にいじめられ、いつも家に来ている祖母の娘(叔母)や息子(叔父)にもいじめられた。


四面楚歌の毎日に、死んでしまいたいと、何度も思った。


ある日、げた箱に手紙が入っていて、いじめかと思い、トイレのなかで開けてみると、「大きい眼の美しいあなたが好きです」とあり、上級生の美眼(みめ)チャンという生徒だった。


わたしは、おどろいた。


いつもシコメの出目金といわれていたのに、眼が悪いのではないか?それともほかのひととまちがえたのかと思った。だが、手紙は、毎日のように入っていて、「あなたはかわいいのだから、もっと自信をもって」と、あった。


ある日廊下で、美眼チャンと、眼が合ってしまった。上級生と下級生が廊下で口をきいたり、むろん登下校もいっしょは禁じられている。眼が合った瞬間わたしはうれしくてにげだし、校庭のすみにひとりかくれた。


わたしは、とてもうれしく、胸がドキドキした。


美眼チャンは、その後も手紙をくれて文通したが、やがて卒業となって会えなくなった。「別れ」と、いう悲しい思いを経験したのだった。


ほんとうの自分を発見するために

離婚後、人生にゆきくれながら、息子とわたしの妹のふたりをかかえ、足ぶみ式のミシンで生計を立てていたが、近くに住む父の友人が同人誌に文章を書くことをすすめてくれ、わたしの人生は突然変わった。


二年後に、『父、萩原朔太郎』が一冊の本になると、出版社や新聞社、雑誌社からエッセイや小説の注文がきて、原稿料というものをもらえるようになり、ミシンをやめて文章を書く毎日となった。


はじめは思うように書きたいことが表現できなかったが、こつこつと努力し、文学賞をいくつも受賞し、小説家としプロの道へ入ったのである。


わたしのはじめての本が出たのは、三十八歳というおそい出発であったが、以後四十年近くで三十冊の小説やエッセイが出せた。息子も社会人になっている。


自分のなかにかくれている才能をさがしだす努力をおしまずに生きると、将来の楽しみが待っている。わたしのように、「虫ケラ以下。生きる資格がない」と、言われて育っても、どこかに自分と向かいあい、何かをつかみだしたいというひとすじの、のぞみみたいなものがあったので、すくわれ、おそい出発でも小説を書く仕事をつかめたのだ。


わたしをいじめたおとなたちは、ろくな一生を送らなかったし、学校のいじめっ子たちも、卒業後どうなっているか。


卒業十年目、S女学校の何かの会で、美眼チャンと思いがけず会えたことはうれしく、げた箱に手紙をくれてわたしを勇気づけてくれたときの話や、別れるときの悲しかったことなど、話しあった。


人生は長い。いじめられて自殺するのは、自分の将来の宝をすてることになるので、バカバカしいことである。おとなになってみれば、いじめた相手はつまらない人間なのだ。いじめられたら「おとなになって仕事で見かえしてやる」と、思えばよいのである。年月がたってみると、苦しいことも楽しくなるものである。


ひとの一生は長くつづくのだから、あせらずゆっくりと歩いてよいので、「学校を卒業してから、ほんとうの自分の道に生きられる」ことを考えればよいと思う。



ここで紹介させていただいた萩原葉子さんの「出発に年齢はない」は、本に掲載されているなかのほんの一部分です。

とても勇気づけられますよ。おススメします!

参考文献
何のために勉強するのか?10代の哲学 5「出発に年齢はない」 ポプラ社



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