もしも、サメが人間だったら
もしもね、サメが人間だったら
小さな魚たちにもっと親切にするのかな
もしもね、サメが人間だったら、海のなかにさ、小さな魚たちのために大きな箱を作らせるだろうね。
箱のなかには、もちろん学校もある。
その学校で小魚たちが教わるのは、どんなふうにサメの口のなかで泳ぐのか、なのさ。
なんといっても大切なのは、もちろん小魚たちの道徳教育だ。
小魚が喜んで自分を犠牲にすることこそ、もっとも美しくて偉大なのです、と教え込まれる。
サメの言うことはみんな信じる必要があります、とも教え込まれる。
サメが『美しい未来のために努力しているのです』と言うときには、とくにね。
もしもね、サメが人間だったら、サメ同士でも戦争をして、見知らぬ魚の箱や見知らぬ小魚を征服するだろう。
その戦争はさ、自分の小魚たちにやらせるだろうな。
小魚たちにはこう教えるんだ。
お前たち小魚たちと見知らぬサメの小魚たちとのあいだには大きな違いがあるのです。
またこう宣告するんだ。
両者は、おたがいにまったく理解しあえないのです。
戦争で、ほかの小魚を、つまり敵の小魚を、2,3匹、殺した小魚には例外なく、勲章がくっつけられ、英雄の称号があたえられるだろうね。
連中のところにはもちろん芸術もあるだろう。
海底劇場は、音楽が甘美なので、小魚たちは夢見心地になって、なんとも心地よい思想を子守歌のように聞かされて、サメの口のなかに流れ込んでいくだろう。
宗教だってあるだろうな。
もしもね、サメが人間だったら、小魚たちに宗教は教えるだろう。
サメの腹のなかに入ってはじめて正しく生きはじめるのです、と。
もしもね、サメが人間だったら、すべての小魚が今みたいに平等であることは、なくなるだろう。
何匹かの小魚が官職につき、ほかの小魚たちより偉くなるだろう。ちょっとばかり大きめの小魚なら、小さめの小魚だって食べてもいいことになるだろうね。
地位を与えられた大きめの小魚たちは、小魚たちのあいだに秩序をもたらそうとして、箱という枠組みのなかで教師、士官、技士などになるだろうね。
要するに、もしもね、サメが人間だったら、はじめて海に文化が生まれるだろう、ってことだな。
参考文献
暦物語 光文社古典新訳文庫
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