複雑怪奇な人間心理
ガリレイの生涯【ブレヒト作】では、「ガリレオは正しい。聖書は間違っている」ことに気がつきながら、
「キリスト教を信じる人がいなくなったら聖職者である自分たちは明日から困る」と、ガリレオに地動説を撤回させたキリスト教会の姿が描かれています。
自分たちの仕事や生活を守るため、反対者の口を封じて、人びとに真実を知らせない――。
しかし人びとは、真実じゃないと知っても、信じるんです。
【教会の考え】 ウソだとばれたら信者が減る。
【ところが現実では】 ウソだと分かっても信じ続ける。
人間ってホント単純じゃありません。だけどこれと同じような現象は、日常のいろんなところに潜んでいますね。
目次
聖書を信じないキリスト教徒
今日ではイエスの処女降誕【マリアの処女受胎】もほとんど信じられていない。
私事になるが、40歳のころまで、筆者 (高橋義人氏) は欧米のキリスト教徒はみなイエスの処女降誕を信じているものと思い込んでいた。
ドイツ留学中のある日、筆者はドイツ人の助手A君とその友人のB君と三人で話をしていた。
いつしか話題は処女降誕の話になり、二人が、キリスト教には処女降誕のような奇妙な神話があると話し出したので、筆者は驚き、
「君たちはキリスト教徒だろう。それなのに処女降誕を信じていないのか」
と尋ねると、二人は笑い、B君が
「信じているはずがないだろう。あんな話を信じているのはローマ教皇だけだろう」
それを受けてA君は、
「ローマ教皇も信じているはずがないさ」と語った。
キリスト教の教義の根幹をなすのは「原罪」「処女降誕」「復活」の三つであるが、今日ではこの三つとも信じないキリスト教徒が急増している。
頁135
【注】この本の著者、高橋義人氏は子どものころから両親や祖父母によってキリスト教徒として育てられてきた、キリスト教信者です。
信じてないけど信じてる
キリスト教は信者がへるのを防ぐため、地動説を唱えたブルーノを火あぶりにし、ガリレオを脅し屈服させました。
だけど現在では、「聖書を信じていないキリスト教徒」がふえているんです。
それは現代が科学万能の世の中なので、ある意味わりきって考えるのが当たり前だからでしょうか。
今と昔の人間心理を単純に比較することはできないとは思います。
ただ、話は変わりますが・・・
太平洋戦争が終わったとき、価値観がそれまでとは正反対に変わってしまいました。
そのことに心底悩んだ人もいる一方で、あっさり受け入れた人もいました。
もしかすると、これもどこかで「信じてないけど信じてる」心理とつながるのかもしれませんね。
あるいは「信じてるフリをする」
つくづく人間は一筋縄ではいきませんね。だからこそ演技の勉強に終わりはないのかなと思います。
いろんなことを知って、奥の深い人間が演じられる声優をめざしましょう。
よく考えたら、似たようなことは身の周りにもたくさんあるような気がするニャ。
信じられる人を見つけよう
こういうことを知っちゃうと、人間が信じられなくなりませんか?
そんなことはない。
マザーテレサは、いろんないやがらせを受けても人を信じ続けたよ。
社会学者の宮台真司さんの言葉を借りると、この程度のことで信念が揺らぐようじゃ、まだまだ理解が浅いんだと思うな。
たとえばオレオレ詐欺などは、よく知らないままでいると騙(だま)されちゃうよね。
知らなければ、どんどん警戒心が強くなってすべての人が敵に見えちゃうこともあると思う。
だけどいろいろ知れば、信じられる人と、ウソをついている人が見分けられるようになるとも思うんだ。
心から信じられる人を見つけるためにも、いろんなことを知っていこう。
参考文献
悪魔の神話学 岩波書店
戯曲ガリレオ 績文堂
Voice actor laboratory 声優演技研究所