シュレーディンガーの猫
SF好きな人なら一度は耳にしたことがあるでしょう。
シュレーディンガーの猫 は、SF映画やアニメのネタとしていっぱい出てきます。
どんな意味か知っておくと、いつか自慢できるかもしれないよ。
思考実験開始!*1
まず可愛らしい白黒の子猫を一匹選び、それから完璧に蓋(ふた)の閉まる箱を見つけましょう。
いったん蓋(ふた)を閉めたら、もう中の様子が外からはいっさいわからなくなるような箱です。
猫と箱がそろったら、次は特殊な条件の放射性物質を調達します。
この実験が行われている時間のあいだに放射線を発する確率が50パーセントであることが分かっている物質です。
あ、あの・・・放射線で猫を殺すんですか?
もちろん、ちがいます。ホッ、よかった。
毒です
ほかに必要なのは、あと三つ。
放射線検出器と、ハンマーと、毒の入ったガラス瓶を用意します。
そして、放射性物質の発した放射線を検出器が感知したら、ハンマーがガラス瓶をたたき壊して、毒をまき散らすように設定します。
これらをすべて――もちろん猫も――箱に入れて、蓋(ふた)を閉めます。
そして、待ちます。
猫が毒を吸って死ぬ確率は50パーセント…。すべては放射性崩壊しだい。
さて、ここでいよいよ質問です。この猫は死んでいるでしょうか?
箱を開けてみないかぎり、放射性崩壊が起こったかどうか知りようがない。したがってガラス瓶が壊されたかどうか知りようがないし、猫が死んでいるのか生きているのかも知りようがない。
現実に即して答えるなら、箱の中の猫は「死んでいるとも生きているとも」考えられます。
しかしそれらの答えはどちらも間違いということになるんです。
量子世界では、起こりうることはすべておこります。
この場合ですが、放射性物質が崩壊するのと崩壊しないのは同じ確率で起こりえます。したがって、どちらも実際に起こるのです。
すなわち量子世界では、猫が「誰にも見られないでいる場合」は、あらゆる量子的可能性が同時に起こるのです。
誰も見ていないかぎり、あらゆる可能性が起こりうる――そして実際にも起こる
量子世界のルールでは、箱が開けられないかぎり、猫は死んでも生きてもいない。その両方です。
猫は死んでいると同時に死んでいない。
死んでいながら生きている。それが「シュレーディンガーの猫」です。
死んでいるのと同時に生きている?
シュレーディンガーがこの思考実験を考案したのが1935年で、それからしばらくのあいだ誰もその謎には答えられませんでしたが、
ついにフランス人物理学者のセルジュ・アロシュとアメリカ人物理学者のデイヴィッド・J・ワインランドが、現実の実験を考案することに成功しました。
そこで使われたのは、猫ではなく、原子と光です。
その結果、彼らはシュレーディンガーの猫【量子的重ね合わせ】がまさしく本物であることを確認しました。
量子的粒子はほぼどんなものでも、互いに相容れない異なる状態のまま同時に存在することができて、実際にそうしてもいるのです。
アロシュとワインランドはこれによって2012年のノーベル物理学賞を共同受賞しました。
こうしてシュレディンガーの猫は、ある段階で本当に死んでいたと同時に生きていたことが証明されたんですね。
参考文献
138億年宇宙の旅 早川書房
*1:
思考実験とは?
昔からずっと、哲学者は――いまでは理論物理学者も――頭の中にこの世界のありようを描き出そうとしてきた。
この世界には、自然の法則がある。
その存在は誰の目にも明らかだが、その言語はずっと長いこと隠されたままだった。
そんな法則を解き明かすため、彼らは物理的にも実験的にも無理な状況に自らを置いてみた。
そうしたやり方を「思考実験」という。純粋に思考だけで行う実験だ。
シュレーディンガーはそうしたプロセスを使って、量子のルールが巨視的な、日常的なできごとと結びついたとき、いかに奇妙に見えるかを示して見せた。
その結果が、死んでいるのでも生きているのでもない、「死にながら生きている猫」だ。
なんと奇妙なことかと思うが、すでにそれは正しいことだと証明されている。