恋をすると・・・
シェイクスピアの喜劇「十二夜」に、執事のマルヴォーリオが、オリヴィアの侍女、叔父、召使いにだまされるサブプロット*1があります。
オリヴィアの侍女マライアが書いたニセモノのラブレターを読んだ執事のマルヴォーリオは「お嬢さまが自分に恋している」と信じ込んでしまうのです。 *2
その【カンちがいの心理描写】が太宰治「カチカチ山」によく似ています。
太宰治の「カチカチ山」は、ウサギは16歳の美少女。タヌキはウサギに恋する中年の醜男(ぶおとこ)という設定になっています。
抜粋して比較してみましょう。
マライア
そう、とめどないばかよ。あれじゃあきっとお嬢さまはおぶちになるわ。ぶたれたら、あの人、これこそ愛のしるしと思いこんでますますニヤニヤするでしょうよ。
太宰治「カチカチ山」
兎(うさぎ)が、あら! と言い、そうして、いやな顔をしても、狸(たぬき)は一向に気がつかない。
狸には、その、あら! という叫びも、狸の不意の訪問に驚き、かつは喜悦(きえつ)して、おのずから発せられた処女の無邪気な声の如(ごと)くに思われ、ぞくぞく嬉しく、
また兎の眉(まゆ)をひそめた表惰をも、これは自分の先日のボウボウ山の災難に、心を痛めているのに違い無いと解し、
恋する人間は、相手の気持ちを自分に都合のいいように都合のいいように解釈してしまうのは、洋の東西を問わずおんなじなんですね。
サギにだまされてしまう心理も同じようなもんだと思うぞ。オレオレ詐欺には注意しよう。
参考文献
カチカチ山 青空文庫
*1:
サブプロットとは
メインプロットとは別のもうひとつのストーリーラインです。
「スターウォーズ帝国の逆襲」で説明すると、主人公ルーク・スカイウォーカーが惑星ダゴバのヨーダのもとでフォースを学び、ダースベイダーとの対決を迎えるのがメインプロット。
ハン・ソロと王女レイアの関係が深まり、愛の気持ちが芽生えていくのがサブプロットです。
*2:
マルヴォーリオは俳優にとってもやりがいのある役柄で、ローレンス・オリヴィエ、ドナルド・シンデン、エリック・ポーターといった名優が、にせもののラブレターを握りしめ「M・O・A・I」というアルファベットの謎解きにやっきになる執事を演じているぞ。