飛ぶ教室 その3
ケストナー作「飛ぶ教室」第三弾。いろんなものにアンテナを張って、アップデートを忘れずにというエピソードです。
「きみたちはこの『しゃれ』が気に入らないのかい」
「しゃれはちっとも悪くありません、校長先生。でも、ぼくの父の話によると、このしゃれは、父が高等科二年にかよっていたころすでに、古かったそうです。先生、なにか新しいことを思いついたらどうでしょう?」
すると先生は「たぶんきみのいうことは正しいだろう」というと教室から飛び出していった。
フリッチェは笑いました。ほかの数人もいっしょに笑いました。しかし大多数のものは、なっとくがいかないようすでした。
「ぼくにはよくわからないけれど、あの老人をそんなにおこらせなくてもよかったんじゃないかな。」
「なぜいけないんだ?」と、フリッチェがさけびました。
「教師は、いつまでも変化の能力を維持する責任と義務があるんだ。
そうでなきゃ、生徒は朝なんかベッドに寝たまま蓄音機(ちくおんき)のレコードに授業をとなえさせたっていいんだ。いや、いや、ぼくたちには、教師としての人間が必要なんで、二本足のかんづめが必要なのじゃないんだ!
ぼくたちを発達させようというんなら、じぶんも発達する先生が必要なんだ。」
「あの老人をなやますのはよそう!」と、美少年のテオドルがいいました。
「比較対象のために、あんな人も必要なんだ。あんな人もいなけりゃ、ベク先生【正義先生】のいいところがわからないだろう。」
アップデートがラクになるコツ
いったんおぼえたことをアップデートするのは大変だ。人間だれでもラクをしたいからな。
だが人間にはラクをしたい、なまけたいと思うのと同時に「いくつになっても楽しみたい」という欲求もある。
あたらしいことを知って、急に目の前がひらけたような気持ちを味わうのはいくつになっても楽しいぞ。それにハマれば、アップデートも楽しくなる。それが役者という生き物だ。
校長先生の後日譚(ごじつたん)
そして校長先生のエピソードには「後日譚(ごじつたん)」があるんですね。
クリスマスの日。
校長先生が短いあいさつをのべました。
それは彼がこれまでおこなってきたクリスマスのあいさつと似たりよったりでしたが、さいごに、今までにはなかった新しい二、三のもんくをのべました。
それが少年たちの心を動かしました。先生はこういったのでした。
「わたしはよく自分がサンタクロースだという気持ちになります。白いほほひげをつけてはいませんが、わたしはサンタクロースと同じくらい年よりです。
わたしはたとえ、むちでおどすようなことをしても、微笑(ほほえ)まれてしまうたぐいの人間です。
けっきょくサンタクロースのように、わたしは子どもを愛する人間なのです。
それをどうかけっして忘れないでください。そう思ってくれれば、たいていのことは大目に見てもらえるでしょう。」
先生はこしをおろして、ハンカチでめがねをふきました。
高等科二年生は、頭をたれました。
彼らはこの先生をばかにして笑ったことを恥じ入っていたのです。
大きなクリスマス・ツリーが、無数の電球でとても美しくきらめいたので、出席者はみんなおごそかな気持ちになりました。
参考文献