自分と違う意見を知る
ステラ・アドラーメソッド演技
演劇をおもしろくするのは、何であれ意見をもつことが大事。劇で演じる人物の意見と、あなた個人の意見は違っていてかまいません。
俳優として、あなたはどちら側の意見にでも同意できるようになりましょう。
どちらの側に立ってもじゅうぶんに説得力があり、どちらが本当のあなたかわからない、と思われるレベルを目指せば、非常にいいエクササイズになります。
この練習にうってつけの本がありました。
この本に出てくる「絶滅はしょうがない派」と「ほろぼしたくない派」の意見は、自分とは違う役を演じる練習につかえますよ。
目次
わたしは地球。
1万年くらい前から、ちょっと変わった生き物が目立ちはじめた。
それが人間だ。
これまでわたしの環境の変化とともにたくさんの生き物が繁栄(はんえい)したりほろんだりしてきたが、人間は自分たちがすみやすいように環境をつくり変えていった。
もちろん今までにも、わたしの環境を変える生き物はいた。
でも、人間のそれはスピードがちがう。
山をくずし、沼を埋(う)め立て、自分たちだけがすみやすい街(まち)をつくった。
人間がつくり変えた場所の環境は以前とはまったくちがうものになる。
当然、それまでその環境に適応していた生き物たちは行き場を失い、だんだんと絶滅していった。
それなのに、ほろびゆく生き物を見ていちばん大さわぎをしたのは、ほかならぬ人間。
じつにへんな生き物だ。
しかし、どんな生き物もいつかはほろびる。
人間が環境を変えていった結果、ほろびるのは人間自身かもしれない。
人間インタビュー
生き物が絶滅した理由をたどると、人間の存在が原因となっていることが、少なからずあるようです。
同じ地球の一員でありながら、ほかの生き物たちをおびやかす人間は、おろかで罪深い生き物なのでしょうか。
しかし、いろんな人間たちから事情を聞いてみたところ、さまざまな意見があることがわかってきました。
よかれと思って・・・。
野菜や果物をダメにしてしまう害虫を退治しようと考えて害虫の天敵をつれてきたのですが、ほかの生き物を絶滅させてしまいました。自然ってむずかしい・・・。
豊かにくらしていくためよ。
池や沼を埋(う)め立てたり、森を伐採(ばっさい)したり、山を切りくずしたりして、私たちは農地や道路や街(まち)をつくってきた。
自然を保護しなきゃいけないのもわかる。
だけど、便利なくらしのためにはしかたないこともあるでしょ?
絶滅はしょうがない派
私たちに危害を加えている害虫や病原菌を放っておくわけにはいかないわ。
だってやっぱり自分や周りの人たちの命は大切だもの。
そういう生き物をほろぼしてしまったとしても、人間がくらしやすい環境を守るために必要なことなんじゃないかなあ。
ほかの生き物があらわれたことで絶滅してしまうような弱い生き物は、しょせんほろびる運命にあったんじゃないかな。
生き物はみんな、生き残り競争をしているわけだし。
生き物なんて何百万種といるわけで、そのうちのいくつかがほろびたとして、なんの関係があるのカネ。
そんなものにお金をかけるのはバカげてる。
絶滅寸前のカエルを助けるために大金を使うくらいなら、飢えている子どもに食事をあたえたほうがずっとよくないカネ?
人間に限らず、ほかの生き物を殺さずに生きていくことなんてできないよね。
日常的にたくさんの命をうばっていながら、自分と直接かかわりのない生き物に対して「数が少ないから、殺したらかわいそう」なんて言うのは、現実が見えていないんじゃないの。
ほろぼしたくない派
ミドリムシが健康食品やバイオ燃料に利用されたり、カブトガニの血液から新しい薬がつくられたりと、意外な生き物が人間の役に立つことがあります。
将来の新発見につながるかもしれないし、いろんな生き物がいることが大切です。
人間が今のすがたに進化してこられたのは、これまでの自然環境があってこそ。
だから、それとかけ離れた環境で生きていくことは不自然であり、予期せぬ問題が起きる可能性があります。
私たちが進化してきた環境と、ともに生きる生き物たちを守ることには大きな意味があると思います。
会えなくなるのはいやだもん!
だって、その生き物の生きているすがたが二度と見られなくなってしまうなんて、すごくさみしい。
地球のどこかで生きていてさえくれるなら、いつか会いに行くことだってできるよね。
人間のエゴかもしれないけれど、そんなに悪いことかなあ・・・?
人間が環境を変えてしまったことで起きた絶滅は、新たな進化をうみ出しません。
人工の環境というのは、一部の生き物だけがすみやすい環境だからです。
このまま地球の環境を改変し続けたとしたら、家畜と農作物、それに害虫くらいしかすめない星になってしまうかも。
未来に目を向けて
絶滅の原因のほとんどは無知によるものです。
だから、過去の絶滅を悲しんだり、人間は悪い生き物だと責めたりするよりも、未来に目を向けて、どうすれば同じことをくり返さずにすむか、ということを考えるほうがはるかに大切だと思います。
地球上の生き物はすべて、いつか絶滅することはさけられない。
大きな環境の変化が起これば、人間だって絶滅してしまうだろう。
でも、人間による絶滅は、自然環境をなるべく変えてしまわないように、私たちみんなが努力をすることで、防ぐことができるはずです。
この地球がたくさんの生き物にとってすみよい星であるために、私たちになにができるのか。
みなさんも考えてみてください。
医薬品という視点
医薬品の原材料には、地球に生息している植物や動物もふくまれます。そのため、その生物<植物・動物>が絶滅してしまったら、薬がつくれなくなってしまうこともあるそうです。
絶滅はしょうがない派の意見
私たちに危害を加えている病原菌を放っておくわけにはいかないわ。だってやっぱり自分や周りの人たちの命は大切だもの。
ほろぼしたくない派の意見
カブトガニの血液から新しい薬がつくられたりと、意外な生き物が人間の役に立つことがあります。
南米アマゾンの熱帯雨林には、まだ発見されていない未知の医薬品の原材料がたくさん眠っているといわれています。
しかしアマゾンの熱帯雨林は、経済開発の名のもとにどんどん減少しています。薬の原材料になるかもしれない生物が絶滅してしまったら困りますね。
なるほど、そのとおりだ。
参考文献
魂の演技レッスン22 フィルムアート社
続わけあって絶滅しました。 ダイヤモンド社