あらしのよるに.3
三巻目「くものきれまに」
おおかみのガブとやぎのメイの友情を描いた絵本「あらしのよるに」シリーズ第三作目「くものきれまに」のテーマを、原作者の木村祐一さんが語っています。
立場の違い
おもしろいのは、ここではじめて主人公の名前が出てくること。オオカミのガブとヤギのメイである。
ここまで名前が必要にならなかったのは、登場人物が二匹だったから。あなたと私ですんでいたのに、二匹目が出てくることになった。
それはメイの友だちのヤギで、ヤギが二匹になってしまった。
ここでのテーマは、立場の違いである。
オオカミであるガブにとってメイは友だち、でもメイの友だちのヤギは餌だ。
メイから見れば両方友だち。
もう一匹のヤギから見れば、メイは友だちだけどオオカミは非常に怖い存在。
この三者が入り乱れた時に、おもしろいドラマが生まれるんじゃないかと思った。
三匹のそれぞれの立場、異なる立場から書いてみるというのに興味がそそられた。
もしかしたら立場の違う三人っていうのは、最小限の社会かもしれないと思う。人間の世の中には立場の違いっていっぱいあるから、これは非常におもしろい。
本妻(ほんさい)と愛人の関係でも、ドラマだったら、カメラをどっちの角度からにするかによって、どちらが善か悪かも変わってくる。
愛人から撮(と)れば「本妻があんまりひどいから、彼は私のほうに来てしまった。彼がかわいそう。本妻が悪い」というようなドラマが撮れてしまうかもしれないけれど、
逆に本妻から撮れば、平和な生活や家庭を乱すとんでもない存在としての愛人のドラマが撮れてしまうかもしれない。
でも真ん中にいる夫は両方愛していたりする。
逆に、真ん中に女がいて、男が両方にいる場合もある。
男女の三角関係に限らず、友だちの友だちは敵とか、敵の敵は味方とか、いろんな関係があるけれど、この三人間(さんにんかん)の対立関係というものは、もしかしたら、人間社会の「関係の基本」なのだ。
参考文献
きむら式 童話のつくり方 講談社現代新書