ワークショップ 声優演技研究所 diary

「なんで演技のレッスンをしてるんですか?」 見学者からの質問です。 かわいい声を練習するのが声優のワークショップと思っていたのかな。実技も知識もどっちも大切!いろんなことを知って演技に役立てましょう。話のネタ・雑学にも。💛

哲学入門にハマる

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あたりまえをうたがうのが哲学の基本です。演技の深掘りに役立ちます。

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常識的な解釈はもちろん大切ですが、それしかできないと、あたりさわりのない、面白みのない演技しかできません。 

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いろんな角度から見つめる「視点」を増やすことが大切なんですね。

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答より問いを探すのが、文学と哲学の仕事です。

たいていの学校では教科書で正解を勉強して、後でテストに正解を書くと100点がもらえるでしょう。

文学と哲学はそういうことはしません。そもそも正解があるのか、を考えるのです。

それが「問いを探して」ということです。

ぼくはそれがいちばん大切だと思っています。

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論理の力で考えてみよう

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みなさん、明治の歴史について知っていますか?

日本に今の教育制度ができたのは明治の初めです。明治5年に「学制」が施行され、全国に学校を作ることになりました。

すぐに小学校が作られ、最初の大学、東京大学ができたのは明治10年です。

小学校と大学はほぼ同じころ、できたけれど、その間にあるはずの中学校がきちんと作られたのはだいぶ後のことになります。

でも、封建制が終わって近代国家になったところは、だいたい、こんなふうに小学校と大学を最初に作るようです。

ところで、どうしてなんでしょう。なんでだかわかる?


小学校と工場の共通点は?

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あらゆる問題がそうであるように、この問題にも絶対の正解はありません。

そこで、岸田秀(きしだしゅう)という、とても優れた心理学者は、この問題について、あらゆる角度から「論理的」に考えてみました。

そしてこんなふうに結論づけたのです。

まず、大学の役割はエリートを作ることでした。

まったく新しい近代国家を作るためには、なにより、国をひっぱってゆく役人や学者や政治家や実業家が必要になります。

生まれたばかりの近代国家日本は急いで新しい国家のための人材を作る必要があったんですね。そのために、まず大学を作って彼らを、日本がモデルにしたいと思っていた欧米の先進国に留学させたのです。

それはまあ、当たり前のことですよね。

 

では、小学校はなぜ必要だったんでしょうか。

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明治の前、江戸時代には、寺子屋がありました。そこに子どもたちは通って、文字や文章を習いました。

でも、行けるのは、豊かな町民の子どもですね。国民の大半である農民には、それは無縁の存在だったのです。

さて、近代国家を作った人たち、新しくこの国を統治するようになった人たちにとって、どうしてもやらなければならなかったのは、農業国だった日本を工業国にしてゆくことでした。

産業を作らなければ、欧米の先進国にやられてしまう。どの国も、農業中心の時代を経て、工業中心になって、初めて近代国家といえるのです。

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さあ、どうしたらいいんでしょう。国民の大半を占める農民に工場で働いてもらうには。

岸田さんは、農民は、そのままでは工員になれないんじゃないかと考えました。なぜでしょう。

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岸田さんは「論理的」に考えた結果、こういう結論に達します。

農民は自然の時間で生きています。農業というものが、自然を相手にしているからです。

太陽がのぼったら起きて働き、陽(ひ)が沈んだら家に帰って休む。だから、夏は5時に仕事を始めても、冬は9時からじゃなきゃ仕事は始められない。

でも、そんな時間感覚では、工場労働者にはなれません。一年中、同じ時間に起きて、同じ時間に仕事を始めてもらわないといけないのです。

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そして、もう一つ、工場労働では「型にはまる」ことが大切です。

たとえば、小学校では、授業を50分やって、10分の休み。その繰り返しです。

そうです、工場も同じですね。50分やって10分の休み、ときには2時間仕事をして30分の休み。その繰り返しが、工場労働の基本です。

そして、働いている間は、絶対に自分の持ち場から離れてはいけない。岸田さんは「論理的」に考えた結果、小学校と工場が同じ本質を持っていることに気づいたのです。

50分間椅子に座っていられること。小学校でいちばん大事なのは、これだった。

答を間違っても怒られないけど、フラフラ教室を出ていくと怒られる。

工場では、そこでおこなわれている労働がどんなに不条理で辛くても、黙っておとなしく、ずっとその時間、そこにいなきゃならない。それが工員に求められる精神なんですね。

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考えれば考えるほど、工場と小学校は似ている。

もしかしたら意味がないことかもしれないのに、丸暗記しなきゃならない。

先生が黒板に書いた正しい答えを覚えないと「出来が悪い」といって叱られる。

先生のいっていることに何か疑問を感じて、間違ってるかも、と思っても、そんなことはいえない。

ひとりだけ違った製品を作ろうとした、そんな工員も怒られるでしょう。

ということは、小学校は「はい」といって、なんでもいうことを聞く子どもを生産する工場なのかもしれない。

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こんなことを考えていると、怖くなっちゃいますよね。

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ぼくは、今、岸田秀さんが「論理的」に考えてみた、小学校の謎について話しました。

だからといって、この意見を「正しい」と思ってすぐに受け入れる必要はありません。だいたい、その文章はずいぶん昔に読んだので、ぼくもはっきり覚えていないからです。

もしかしたら、岸田さんの意見に加えて、ぼくの意見や考えも紛れ込んでいるかもしれません。*1

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それに、ここでいわれているのは、誰かが「奴隷」を作ろうと考えて、小学校を作ったということではありません。

何かあるものをじっと見て、それから、いろいろなことを考えてゆくと、世間でいわれていることや常識とは似ても似つかない結論が出たりするということです。

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そして、ぼくたちは、みんな、ものごとを自由に考えてもいいのです。誠実に、真剣に、あらゆる可能性を考えにいれながらならね。

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でも、岸田さんの、こんな考えは、学校という場所では、おそらく絶対にいわれない種類のことだと思います(笑)。だって、学校ほど、世間の常識に基づいて作られているものはないんですから。

参考文献

答えより問いを探して 講談社

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www1.odn.ne.jp

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*1:ぼくとは?

「答えより問いを探して」の著者、高橋源一郎さんのこと