ワークショップ 声優演技研究所 diary

「なんで演技のレッスンをしてるんですか?」 見学者からの質問です。 かわいい声を練習するのが声優のワークショップと思っていたのかな。実技も知識もどっちも大切!いろんなことを知って演技に役立てましょう。話のネタ・雑学にも。💛

ガン

余命半年、延命治療で1年。ただし患者さんのなかには5年くらい生存した方もいます。

2020年8月17日 (月) 13時半すぎ

巻島直樹は、全身にガンが転移していて、ステージ4【末期がん】の状態だと告(つ)げられました。 

 

おもしろがろう、楽しもう

不思議なものでガンで余命半年と知らされたとき脳裏に浮かんだのは、死への恐怖より「だったら残りの人生、おもいっきり楽しもう」ということでした。

 その考えは黒澤明監督の「生きる」にかなり影響されていると思います。

生きる 黒澤明

「生きる」の主人公、渡邊さん (演・志村喬) は、どうせ死ぬなら楽しいことをしようと、酒を飲んだりストリップショーを見たりします。

だけど全然楽しくありません。

本当に心の底から楽しめることはなんだろう。

「自分は仕事をしている時がいちばん楽しい」ことに気がついた渡邊さんは、残りの人生を公園づくりに邁進(まいしん)するんです。

 

黒澤映画「生きる」は、夕暮れになって、夜になって、真っ暗になっても、渡邊さん がつくった公園で、楽しそうに遊んでいる子供たちを見て、「渡邊さん てすごいことをしたんだなあ」と、しみじみ感じる映画です。

 

映画「生きる」のテーマは、

好きなこと、楽しいことをしよう。

そしてその<自分の>好きな楽しいことが、他人に迷惑をかけることではなく、「あの人がいてくれて本当によかった」とまわりの人からもよろこんでもらえたとしたら最高だよね。

生きるってそういうことなんじゃないかな・・・それが黒澤明監督からのメッセージだと思います。

それを実践しようと思いました。

*1

2020年8月17日以降が、自分の好きなことを実践したブログです。

つまり「闘病記」です。

しかし読み返してみると闘病記とは名ばかりの、けっこう能天気な内容だと我(われ)ながら思います。

結局、演技やらなんやらいろんなことについて考えることが、わたしは好きだったんでしょうね。

 

ガンは「気がつかない」

ワークショップの生徒の一人にガンであることを告げたとき、泣いて叱られました。

「なんで気がつかなかったんですか!!」と

気がつかないんだ、これが。

ほんのちょっと気分が乗らないな・・・くらいなんです。

だけど気持ちをしっかり持ったら大丈夫、いつもとまったく変わらない、それがガンのステージ4「末期がん」の状態です。

 

わたしがガンを告知されたのと同じ時期、「ブラックパンサー」の米人気俳優チャドウィック・ボーズマンさんがガンでお亡くなりになりました。

映画を撮影していた時は、ステージ3の状態だったそうですが、まわりのスタッフはだれも気がつかなかったそうです。

わたし、これ、すっごくよくわかりました。

 

「気づかせなかった」んじゃなくて誰も「気づかないんです」

 

ガンであることがわかってから入退院の生活を送りましたが、街中を散歩したり、買い物に行ったり、近所の人と会話しても、誰も気がつきませんでした。

一か月前、12月7日にブログで発表した「前歯が3本抜けてる状態で東京特許許可局にチャレンジ」した YouTube動画は、余命半年といわれてから4か月目です。でも、ガンだとわかりませんよね。*2

お芝居で「ステージ4の末期がん患者の演技をしてください」といわれて、こんな演技表現をしたら「それじゃ健康な人と変わらないよ」とダメ出しされるでしょう。

だけどそれが現実です。*3

 

だれでも一度は「モテ期」がある?

入院してると看護師さんたちが日々とても大変な仕事をしていることが、よくわかります。

わがままな患者さんは、けっこういます。

川端康成が、死期の間近な祖父を看病した日々を綴った「十六歳の日記」にもあるように、病気になるとわがままになる人はけっこういるんですね。

 

病気になった患者本人にしてみれば、「なんで自分が!」とイライラをぶつけたくなる気持ちも、よくわかります。だけどわたしは・・・。

 

「いつもありがとう」みたいに看護師さんたちにねぎらいの言葉をかけて、つとめて明るくふるまうことにしました。

 

それとヒマなときに消化器内科の病棟内をほっつき歩いて、落ち込んだ表情をしている患者さんに、「おれガンのステージ4だよ。だからこそ残りの人生を楽しもうと思ってる。あなたのほうが、ずっと恵まれてるよ。だから元気出してね」と声をかけたりもしました。*4

 

そんな行動が看護師さんたちみんなに知れ渡っちゃって、看護師さんたちからの評判が、すっごくよくなっちゃったんです。

ひとりの看護師さんに「巻島さん、やさしすぎます。そんな患者さん他にいません」と、涙ぐまれて言われたときは、けっこうとまどいました。

 

そんなこんなで「だれでも一度は人生に『モテ期』がある」は本当だと思います。

だけど死ぬ間際ではなく、もうちょっと早くモテてたらよかったな、とも思いました。

 

残された時間をどれだけ有意義に過ごせるか

人は死ぬとき、自分がこの世で手にいれたものを持ってはいけない。死んだあとに残るのは、自分が他人に与えたものだけだ。


病気になってからでも、後悔や過ちを正すのに遅いということはない。残された時間に長短はあれど、やりなおそう、よりよい人生にしようと、最期まで前を向くことが大切なのだ。

~ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽 ポプラ社より~

最後の最後まで楽しんで、成長を目指して生きていこうと思っています。 

Voice actor labo 声優演技研究所 巻島直樹

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*1:

因(ちな)みに「生きる」の葬式の垂れ幕は、結婚式の紅白を使ってますね。モノクロ映画だから分かりづらいけど・・・。

黒澤監督は、葬式の黒白を使うと、画面全体が重くなるのをふせごうとしたんだと思います。

または、喪服と色が同じだから、登場人物が画面に埋没しちゃうのを避けたんだと思います。

*2:

ちなみに歯の治療は完了しました。

*3:

高校野球取手二常総学院(ともに茨城)の監督として、春1度、夏2度の甲子園優勝を果たした木内幸男氏が11月24日午後7時5分、肺がんのため茨城・取手市内の病院で死去した。89歳だった。

木内幸男さんは、今年の夏ごろまでは元気そうだったと関係者は話す。その後、「腹が痛い」と漏らすようになった。口から食事ができなくなり、がんが見つかった。

新聞各紙の報道より

 

*4:

ガンの専門病院に入院してたんじゃありません。

いろんな病気の患者さんが入院していました。

手術支援ロボット ダヴィンチとかも調べたんですが、ステージ4だと手術は無理みたいなんです。

それだったら残された人生を悔いなく生きようと思いました。