お熱いのがお好きとギリシャ神話
ギリシャ神話の神や英雄の名前が、アニメや映画のキャラに使われているのは一昨日(おととい)のブログでお話しました。
それは、マリリン・モンロー映画の最高傑作といっても過言ではない「お熱いのがお好き」(1959年)も、そうなんですね。
「お熱いのがお好き」あらすじ
禁酒法時代のシカゴ。
聖バレンタインデーの虐殺を目撃したため、マフィアに追われるサックス奏者のジョー(トニー・カーティス)とベース奏者のジェリー(ジャック・レモン)は、シカゴから逃げ出すために仕事を探しますが、団員を募集していたのはフロリダに向かう全員女性の楽団だけでした。
女装してジョセフィン、ダフネとなって女性楽団にもぐりこんだ二人は、
その楽団の女性歌手でウクレレ奏者のシュガー(マリリン・モンロー)に恋をしてしまいます。
フロリダでジョーは再び変装し、
シェル石油の御曹司「ジュニア」だと偽(いつわ)ってシュガーに求愛します。
一方ダフネに変装中のジェリーは、本物の大富豪オズグッド3世(ジョー・E・ブラウン)から求婚されてしまいます。
シカゴからフロリダへ、マフィアの手からうまく逃れたかに見えた二人でしたが、彼らが滞在するホテルにマフィアの別名団体である「イタリアオペラ愛好会」が訪れました!
ダフネのせりふ
マフィアに捕まったら壁の前に並んでダダダ・・・警察が死体を見つけて裸にする。ああ恥ずかしい
女装してるし、驚(おどろ)くだろうね。
さあ、どうなるという大爆笑コメディで、モンローの映画では一番のお気に入りです。
そして・・・
ギリシャ神話と関係があるのは、ジェリー(ジャック・レモン)が女装したときに名乗ったダフネです。
「お熱いのがお好き」ダフネのせりふ
男なんて大嫌い
毛むくじゃらで手が早くて
ねらいは女のアレだけ
ベルニーニの彫刻「アポロンとダフネ」
男なんて大キライアポロンとダフネ
オリンポス12神の一人、アポロンは絶世の美男子で、常に弓矢と竪琴(たてごと)を携えていました。
ある日、悪龍ピュトンを退治していい気になっていたアポロンは、同じく弓矢を得意とするエロスをからかってしまいます。
「私は先日恐るべき巨大竜をやっつけたが、お前はせいぜい恋の矢を射ることしかできないだろ?いっちょまえに弓矢の達人ぶるのはやめたまえ」
これに腹を立てたエロスは、恋慕の情に取りつかれる金の矢をアポロンに、嫌悪の情に取りつかれる鉛の矢を、川の神ペネイオスの娘ダフネに放ちました。
たちまちアポロンはダフネに夢中になり、全力でダフネを追いかけますが、ダフネは「絶対に結婚したくない」と全速力で森の中を逃げ続けます。
ダフネは類稀(たぐいまれ)なる美少女でしたが、恋愛を汚らわしく思い、永遠の処女でいる誓いを立て、父からも許しを得ていました。
そんな彼女に呪力が加わったのですから、アポロンがどんなに言い寄ろうと、拒まれるのは当然でした。
強硬手段をも辞さないアポロンから必死に逃げ回るダフネでしたが、ついに力尽き、今にもつかまりそうになったとき、父に最後の願いを叫びます。
「わたしをこの男から守って。わたしの美しさを他人のものにしないで」
次の瞬間、ダフネは1本の美しい樹木、月桂樹に変わりました。
それ以来、月桂樹はアポロンの大好きな木になり、アポロンはその枝で身を飾り、月桂樹を冠にして戴くようになったということです。
・・・というわけで
「お熱いのがお好き」で、ジャック・レモンが演じたダフネも、大富豪オズグッド3世の求愛から逃げ回る役でしたね。
以上、「お熱いのがお好き」と「ギリシャ神話」の関連性でした。
参考文献
ギリシア神話の神々 河出書房新社
ギリシアの神話——神々の時代 中公文庫
眠れなくなるほど面白いギリシャ神話 日本文芸社
「お熱いのがお好き」の背景となった禁酒法時代と、スペイン風邪の関連について、毎日新聞 余録より抜粋させていただきます。
米国でスペインかぜが猛威を振るったのは禁酒法の施行前夜だった。
感染防止で酒場の営業が禁じられ、禁酒運動に勢いがついた。
一方、一部地域ではウイスキーが治療に有効と薬品扱いされた。
医師の処方で飲酒する手法は禁酒法の時代にも続いた▲
「お熱いのがお好き」でも、病気を疑われたダフネが「お酒を飲んで治そう」とモンローに提案し、ドンチャン騒ぎに発展するシーンがありましたね。
アポロンは「オリンポスのポロン」原作:吾妻ひでお(アニメのタイトルは『おちゃめ神物語コロコロポロン』)のお父さんとしても知られていますね。