ワークショップ 声優演技研究所 diary

「なんで演技のレッスンをしてるんですか?」 見学者からの質問です。 かわいい声を練習するのが声優のワークショップと思っていたのかな。実技も知識もどっちも大切!いろんなことを知って演技に役立てましょう。話のネタ・雑学にも。💛

妹萌え💗と父となる話

メッチャ都合よすぎf:id:seiyukenkyujo:20200119105712g:plain

ありえないf:id:seiyukenkyujo:20200220234152g:plain

へそが茶を沸(わ)かしますねf:id:seiyukenkyujo:20190913101921g:plain

・・・だけど

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なんだかいいなf:id:seiyukenkyujo:20190913102001g:plainと思っちゃう話が——

父となる話 川端康成

「これがお前のお父さんだと、お母さんが死ぬ時にくれた写真なのよ。東京にいるはずだから、お前が大きくなったら頼ってお行きって。」

浅草を追われて、もう半年も田舎廻りのレヴュー団の一員、萬里子。

ところがルイ子が

「あら、これがお父さんだと、萬里子さんたいへんよ。S興行社の支配人とそっくりよ。親子の名乗りをすれば、もうこんな旅廻りなんかしてることなくってよ。私が支配人に手紙書いて上げるわ。」

というわけで、僕は娘が見つかったという手紙を受け取ったのでした。

萬里子の生れは、静岡だといいます。

「静岡といわれてみれば覚えがある。」と、僕は萬里子を僕の隠し子ということを話して、知り合いの映画会社に使ってもらうことにしました。

ところが一月ばかりすると、撮影所の男がやって来て

「撮影所に静岡の男がいて、あの人のおやじもおふくろも知っているというんですがね。おやじは漁夫で、四五年前にみじめな死に方をしたそうですよ。おふくろが若いころ、一膳飯屋の女中をしていた時、二人の間に生れた私生児だそうで。」

「そんなはずはない。」

と、撮影所の男はごまかしたものの、そういわれておぼろげながら思い出されるのは、その飯屋の女中が連れていた五つ、六つの子供です。

あの女の子が萬里子だったのか。

しかし僕はその次萬里子に会っても、なんにもいわないつもりでした。ところが萬里子は突然泣き崩れて、

「私はほんとうのお父さんを知っていましたの。お母さんが亡くなった後で、これが私のお父さんだと、お母さんに貰った写真を見せると、近所の人に笑われましたわ。お前のお父さんは、あの源八という漁夫だって。
お母さんを堪忍してしてあげて下さい。
お母さんがあなたをどんなにすきだったか、私にはよく分りますわ。これがお父さんだ、頼ってお行きって、たった一人の子供に遺言したくらいですもの。そうして私——。

と、萬里子は口籠りましたけれども、僕は彼女のいいたいことがよく分りました。

つまり、萬里子は母から写真を貰った時から、僕に不思議な愛を感じはじめていたのです。 

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いい加減にしなさいf:id:seiyukenkyujo:20190913102311g:plainと突っ込みたくなる、わずか4ページの短編小説が「父となる話」です。

最高におもしろいです。*1

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妹萌え💗」で紹介した「孤児の感情」が、こんな展開になってくれて、「あとは読者の想像におまかせします」みたいなラストだったら文句なしだったのにな、なんて思う今日この頃でした。

参考文献
川端康成全集 第二十二巻 新潮社

seiyukenkyujo.hatenablog.com

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ではなぜ「孤児の感情」を、そういう展開にしなかったのかf:id:seiyukenkyujo:20190913094421g:plain

遺伝です。

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川端康成は、妹の婚約者、笠原を遺伝学者という設定にしました。

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それにより、妹に惹(ひ)かれる主人公の心に楔(くさび)を打ち込んだのです。

孤児の感情 川端康成

千代子は、私の妹であるという記憶のようなものを、彼女の頭の中に持っている。

しかし、若(も)しそれを忘れてしまったら——。

「私は妹と結婚するだろう。」

しかし、私と妹とは同じ遺伝を受けている。だからいけないのだ、と私は呟(つぶや)く。

遺伝。遺伝。——笠原は遺伝学者である。

——なぞと考えた時、さっきから私を愚かな妄想に耽(ふけ)らせていた「夜」というものを追払うかのように、私は激しく頭を振った。

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大衆娯楽小説ではない純文学の世界では、川端康成は遺伝の問題——近親相姦——を軽々しく扱うことは嫌だったのでしょうね。

参考文献
川端康成初恋小説集 新潮文庫

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www1.odn.ne.jp

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*1:

【べつの視点からの意見】

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ただ「父となる話」の萬里子は、「清純なふりをしながら男を手玉に取っているんじゃないか」という、うがった見方もできちゃうのが残念ですね。特にラストのセリフから・・・。

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そういう意味でいうと、同じようなラストの「母の初恋」のほうが、好感が持てるにゃ。