目明しとハッカー
戦国の忍び
戦国大名は、悪党を支配下に編成することで、「昼」の支配から、「夜」の支配に大きく手を伸ばした権力ということができるかも知れない。
それまでの権力は「夜」を支配するアウトローたちを、武士が追捕(ついぶ)するといった形態を維持してきた。
それゆえに「夜」の世界に精通する彼らを、容易に捕捉(ほそく)できず、治安維持の成果もなかなか挙がらなかった。
だが、戦国大名は、悪党たちを忍びとして召し抱えることで、彼らを通じて「夜」の世界の規制に乗り出した本格的な政治権力だったといえるのではないだろうか。
この方向性は、江戸幕府にも引き継がれていった。
江戸時代、江戸の市中で活動し、犯罪者の摘発に当たっていた「目明し」などがそれに相当するだろう。
目明しは、同心や与力配下の雇足軽、手附、手代、小者などでしたが、同心を助け、犯罪捜査に邁進(まいしん)する彼らは、実は元犯罪者、無宿人でした。
彼らは、捕縛された後に犯罪を悔い、仲間を裏切って訴人をしたり、あるいは密告をして罪一等を減じられた者たちが多かったらしいのです。
これは、戦国大名が悪党たちを、その配下に迎え入れた契機の一つとそっくりです。
江戸幕府は、犯罪摘発のために目こぼしをして、町方同心、与力の配下として活動させていた目明したちが、再び悪事を働いたり、町人たちに迷惑をかけ、顰蹙(ひんしゅく)を買う事態に最後まで悩まされました。
悪をもって悪を制す、という戦国以来のやり方は、うまく機能すればよいですが、そうでなければ、政治権力にとってマイナスに働くことにも繋(つな)がったのですね。
「戦国の忍び」を読んでいて「コンピュータ・ハッカー」を思い浮かべました。
ご存じのようにハッカーは2種類います。
悪意を持ってコンピュータに不正侵入してサイバー攻撃をしかける「ブラックハッカー」と、その攻撃からコンピュータを守る「ホワイトハッカー」です。
海外ドラマ「クリミナル・マインド」に登場する、ペネロープ・ガルシアは、トップクラスのハッカーでしたが、FBIにリクルートされ、ホワイトハッカーに転身したという設定になっています。
このようにブラックハッカーをスカウトする事例は現実にもあるそうですよ。目明しと似てますね。
参考
戦国の忍び 角川新書