ワークショップ 声優演技研究所 diary

「なんで演技のレッスンをしてるんですか?」 見学者からの質問です。 かわいい声を練習するのが声優のワークショップと思っていたのかな。実技も知識もどっちも大切!いろんなことを知って演技に役立てましょう。話のネタ・雑学にも。💛

ゴッドファーザーとアル・カポネ

暗黒街の帝王アル・カポネの言葉

「公共への奉仕こそ、わが信条」「祖国を健全、安全、高潔に」。

慈善活動家の発言ではない。暗黒街の帝王、アル・カポネが残したと伝えられる言葉である

▼米国の禁酒法につけ込んで密造酒などで大もうけしたのは有名だ。

何のつもりで慈善家風の言葉を口にしていたのかは知らないが、「公共への奉仕者」の仮面には、犯罪者の印象を薄め、罪悪感をごまかしたりする効果があったかもしれない

中日新聞コラム「中日春秋」より

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これを読んで「ゴッドファーザー」のラストを思い出しました。

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カソリック教会・洗礼式で、パイプオルガンの音楽が流れるなか、マイケルが「悪魔をしりぞけます」といった返事をする姿と、マイケルの手下によってたくさんの男たちが殺されるシーンが交互に描かれる・・・

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口ではきれいごとを言いながら、その実態は・・・という、あの有名なラストシーンです。

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あくまで推測ですが、ゴッドファーザーのラストは、アル・カポネの言葉を下敷きにしているんじゃないかとわたしには思われました。

偽りの言葉と真実の姿・・・

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小説「ゴッドファーザー」には、残念ながら、そのラスト部分の描写はありません。

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ですので、ラストの前の重要な部分を引用させていただきます。

ゴッドファーザー

——兄に向かって、コニーが金切り声を、呪詛(じゅそ)と非難を浴びせだした。

「卑劣なろくでなし!」コニーは金切り声で叫んだ。

「主人を殺したのね。あんたはお父さんが死んで誰も邪魔できなくなるまで待って、そして殺したんだわ。
あんたが殺したのよ。
あんたはソニーのことで彼を非難していた、いつもそうだった。みんなそうだったんだわ。
あんたは私のことなんて一度も考えちゃくれなかった。私なんかどうなろうとかまやしなかったのよ。
これから私はどうしたらいいの、どうしたらいいのよ?」

彼女は泣きわめいていた。

マイケルの護衛が二人、彼女の後ろにまわり、彼からの命令を待ち受けていた。

しかしマイケルは、ただその場に平然として立ち、妹の興奮がおさまるのを待っていた。

ケイがショックを受けた声で言った。「コニー、あなた気が動転してるのよ、そんなことを言ってはいけないわ」

「彼女を家にかえして、医者を呼んでやってくれ」とマイケルは言った。すぐに二人の護衛はコニーの腕をつかみ、家の外へ彼女を引っ張っていった。

ケイはまだショックから覚めきっていなかった。彼女は夫に言った。

「どうしてあの人はあんなことを言ったの、マイケル、何が彼女をあんなふうに信じ込ませたの?」

マイケルは肩をすくめてみせた。「ちょっとヒステリーを起しただけのことさ」

ケイは彼の目をのぞき込んだ。「マイケル、あれは本当じゃないわね、お願い、本当じゃないと言って」

マイケルはうんざりしたように首を振った。「もちろん、本当じゃないさ。ぼくを信じるんだ。あれは絶対に本当じゃない」

マイケルの口調はかつてないほど強いものだった。彼はケイの目をまっすぐに見つめた。彼女に自分を信じさせるため、二人が結婚生活の中で築いてきた相互信頼のすべてを駆使しているのだった。

そして、これ以上ケイは疑えなかった。悲しげに微笑みかけると、彼女はキスを求めて彼の腕の中へ入っていった。

「わたしたち、飲み物がいるわね」

彼女はそう言って、氷を取りにキッチンへ入っていったが、その時、玄関のドアが開くのを耳にした。彼女はキッチンから出ていき、クレメンツァ、ネリ、それにロッコ・ランポーネが護衛を連れて入ってくるのを見た。

マイケルは彼女に背を向けており、ケイは彼の横顔が見える位置に身体をずらせた。彼女の夫に向かい、クレメンツァが改まった挨拶と共に話しかけた。

「ドン・マイケル」 そうクレメンツァは言った。

ケイは、彼らの臣従の礼を受けているマイケルを見守っていた。

彼はローマの彫像——神から授かった権力によって、臣下に対し絶対の機能をほしいままにしたあの古代ローマ帝国の彫像を、彼女に思い起こさせた。

片手を腰にあてがい、その横顔は冷たく尊大な力強さにあふれ、後方にわずかにずらした片足に全身の重みをかけて、ゆったりと、傲然とくつろいでいた。幹部たちは彼の前に控えている。

その瞬間、ケイは、コニーの先ほどの言葉がすべて真実であることを悟った。

彼女はキッチンにもどり、静かに涙を流した。

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因(ちな)みに小説版のラストには、このようなやりとりが描かれています。

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ケイはハーゲンに食ってかかった。

「彼は自分の妹の夫を殺したんだっていうこと。わかって?」

彼女はちょっと言葉を途切らせた。

「そしてわたしに嘘をついたんだわ」

二人は長いこと黙って歩き続けた。やっとハーゲンが言った。

「そういうことがみんな本当だと、実際に知る手段は何もないんだよ。しかし、ただ議論のために、本当だと仮定してみよう。
本当だというんじゃないよ、いいね。
さて、ぼくが彼のやったことを弁護したらどうなる?つまり何かもっともらしい弁明を見つけたら?」

ケイは軽蔑したように彼を見つめた。「それは、あなたの弁護士としての側面をわたしが初めて目にするってことよ、トム。でもそれはあなたの最上の面ではないわ」

ハーゲンはにやりとした。

「オーケー、まあ最後までお聞きよ。もしカルロがソニーを罠にはめ、彼を殺させたんだとしたらどうする?
あの時カルロがコニーを殴ったのは、ソニーを戸外におびき出すための慎重な策略であったなら、つまり、相手は彼がジョーンズビーチ・コーズウェイを通るだろうと知っていたとしたらどうなるだろう?
ソニーを殺す手助けをするために、カルロが金を支払われていたなら?
もしそうだったらどうなるね?」

ケイは答えなかった。ハーゲンは言葉をついだ。

「そして、もしドンが、あの偉大な人が、自分がせねばならないこと——自分の娘の夫を殺して、自分の息子の死に復讐することがどうしてもできなかったとしたら?
結局、それは彼の手に負えなくて、マイケルならその重荷を自分の肩から除き、その罪を甘受してくれるだろうと知って、それでマイケルを自分の後継者にしたのならば?」

「みんなすんだことだったのに」目に涙を湧き上がらせながら、ケイは言った。

「みんな幸せだったのよ。なぜカルロは許してもらえなかったの?なぜ何もかもそのままにして、そしてみんな忘れてしまえなかったの?」

ハーゲンは草の上に坐り込み、ため息をついた。

「普通の社会だったら、そうできたんだよ」

ケイは言った。「彼はもう、わたしが結婚した時のような人間じゃないわ」

ハーゲンは短い笑いを上げた。

「もし彼がそのままだったら、今ごろは死んでいるさ。君は今ごろ未亡人になってることだろう」

ハーゲンは続けて言った。

「もう少し率直な話をしてあげよう。ドンがなくなった後、マイクを殺すための罠が用意されたんだよ。
誰がそれを仕組んだかわかるかい?テッシオだ。そこでテッシオは殺されねばならなかった。カルロも殺されねばならなかった。裏切りは許すことができないからだ。
マイケルは彼らを許すことができたかもしれない。しかし、一度裏切った者は、その弱さゆえに、再び危険な裏切りを犯す恐れがあるのだ。
マイケルは本当にテッシオが好きだった。彼は妹を愛しているんだよ。
しかし、もしテッシオやカルロを勝手にさせたならば、彼は君や子どもたちや家族全員、ぼくやぼくの家族に対する義務を怠ることになっただろう。
彼らはわれわれ全部にとって、われわれすべての生活にとって、危険なものになっていたかもしれないのだからね」

頬に涙を伝わせながら、ケイはこれを聞いていたのだった。

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それでは、またね。f:id:seiyukenkyujo:20190821020313g:plain

引用
ゴッドファーザー(下巻) 早川書房

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www1.odn.ne.jp

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