ワークショップ 声優演技研究所 diary

「なんで演技のレッスンをしてるんですか?」 見学者からの質問です。 かわいい声を練習するのが声優のワークショップと思っていたのかな。実技も知識もどっちも大切!いろんなことを知って演技に役立てましょう。話のネタ・雑学にも。💛

エロティック川端康成

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エッチな表現を、下品になる一歩手前で抑えるのが川端文学の特徴だといわれます。

舞姫 川端康成

やはり、ゆうべ、旅帰りの夫を迎えた、つかれであろうか。

このごろでは、波子は自分をおさえるのだが、矢木はそれを知らぬふりで、こころえていた。

波子は夫になにかしらべられるような、しかし罪の思いはゆるめられるような、そして突きはなされたような、そういううつろにしばらくいるところを、またゆりかえされて、こんどは、閉じた目のうちに、金の輪がくるめき、赤い色が燃えるのだった。

昔のこと、波子は夫の胸に顔をすりよせて、

「ねえ、金の輪が、くるくる見えるのよ。目のなかが、ぱっと真赤な色になったわ。死ぬのかと思ったわ。これでいいの?」
と、言ったことがあった。

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あのう、つまりこのことを言ってるんですね。

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「私、気ちがいじゃないの?」

「気ちがいじゃない。」

「そう?こわいわ。あなたはどうなの?私とおなじなの?」
と、取りすがるように、
「ねえ、教えて・・・。」

矢木が落ちついて答えると、

「ほんとう?それならいいけれど・・・。うれしいわ。」

波子は泣いていた。

「しかし、男は女ほどじゃないらしいね。」

「そうなの・・・? 悪いわ。すみません。」

そのような問答を、今思い出すと波子は若い自分がいじらしくて、涙がこぼれる。

今も金の輪と赤い色の見えることはあるが、いつもではない。また、素直にではない。

今はもう、幸福の金の輪ではなくなってしまっている。すぐ後に、悔恨(かいこん)と屈辱とが胸をかむ。

「これが最後だわ、絶対に・・・。」

波子は自分に言い聞かせ、自分にいいわけする。

しかし、考えてみると、二十幾年ものあいだ、波子は夫を、あらわにこばんだことが、一度もなかったようだ。無論、こちらからあらわにもとめたことは、一度だってない。なんという奇怪なことだろうか。

男と女のちがい、夫と妻とのちがい、おそろしいほどのちがいではないのか。

女のつつしみ、女のはみかみ、女のおとなしさ、どうしようもない、日本の因習にとざされた、女のしるしなのであろうか。 

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エロティックな表現だけでなく、川端文学はなんとなくまわりくどいのも特徴です。

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でも、だからこそ文章の読み解きの訓練になるにゃf:id:seiyukenkyujo:20190817025006g:plainと思っている今日この頃です。

引用
舞姫 新潮文庫

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www1.odn.ne.jp

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