リアル・ブラックジャック
がん治療チームの主治医の先生に、薬剤師さんについてお話しました。
優秀な薬剤師さんですので、お互いに協力し合って、治療にあたってくださるとうれしいな、と思ったからです。
——報告内容——
薬剤師さんがすすめてくれた、ブチルスコポラミンを飲んだら、汗の量が減少しました。
プラシーボ の可能性も考えたんですが
前回に続き、今回も汗の量が減ったので、プラシーボではなく、薬が効いているんだと思うんです。
前回、薬剤師さんに
「なんで、この薬が効くと思ったの?」と訊ねたら
論文を読んでいた、とのこと。
薬剤師さんが、症状をいろいろ訊ねてくれたので
俺のがん治療薬のデータの紙を、薬剤師さんに渡したんです。
薬剤師さんは、俺に使われている治療薬と、同じ症状の患者さんをあつかった、世界中の論文をいくつか読み比べて
イリノテカンに着目し、副作用の心配もないことを考慮して、ブチルスコポラミンをすすめたんですよ、とのことでした。
世界中の論文?
びっくりしました。
ものすごく熱心です。
ふつうそこまでしないと思います。
正直に言って、俺だってそこまではやりません。
「めんどくせー」ってなっちゃって、絶対に調べないと思います。
「自分の体だよ、調べなきゃ死ぬんだよ」って、心のなかの自分から言われても
「そこまでやってらんないよ、
調べたところで助かるとは限らないし、
んなこと調べて時間を浪費するより、残りの人生を、のん気に楽しく過ごした方が、ずっといいよ」と、屁理屈を並べ立てると思うんです。
びっくりした理由は、他にもあって
ブチルスコポラミン臭化物錠は、誰もが「これだ!」と、自信を持って選ぶ薬ではないらしいんです。
だとすると薬剤師さんの心には
「もしも効かなかったら、どうしよう…」と不安がよぎると思うんです。
効果がなかったら「ほぉら、ごらんなさい」って笑われるかも・・・。
そうなったらカッコ悪いし・・・
ブチルスコポラミンで間違ってないと思うけど
もしも効かなかったら・・・。
いいや、いいや。他人のことだし
ごまかしちゃおう。
だまってれば分かんないよね
そうやって
あえて危険なリスクをさけて、無難な行動をとってしまっても
それが極々ふつうな、人間心理だと思うんです。
結局のところ人間とは、どんな職業であれ「自分の弱い心との闘い」なんだと思います。
そう考えていくと、この薬剤師さんは、
かっこ悪いとか、他人のことだとか、そんなことお構いなしに、ブチルスコポラミンを勧めてくれました。
心から尊敬できる、すごい人です。
今後、俺にできることは
薬を飲んで、どうなったかを薬剤師さんに正確に報告していくことです。
1.前回・今回と汗が引いたが、今後もそうなのか。
2.薬の効果は安定しているのか、波があるのか。
3.がん治療を続けるうちに、薬の効果は変わっていくのか。
などを、ウソ偽りなく薬剤師さんに報告することですね。
恋愛感情とは違う。
それと決してまちがえてはならないのは、
これは恋人同士の〝好き〟という感情とはちがうということ。
薬剤師さんは、あくまでも「患者として」俺のことを心配してくれているんであって、恋人として心配しているのではないということ。
それを勘違いして、ストーカーみたいなことをしてしまったら、すべてを失ってしまうでしょう。
そこのところを特に肝に銘じたうえで、今後も薬剤師さんのアドバイスを受け続けていけたらなと考えております。
自分は、グレタ・トゥーンベリさんや大坂なおみ選手のような〝自立した女性〟が好きなんですが、
薬剤師さんも彼女たちと同じような「一本芯の通った」稀に見る (まれにみる) 優れた逸材 (いつざい) だと感じています。
正しく「ブラックジャック」のような人ですね。
これからもよろしくお願いします。