真実は、ひとつじゃない。
裏庭 梨木香歩
「嘘をついてまで?あれは、嘘だったの」
だが問題はそう単純ではないと、テルミィは心のどこかではわかっていた。
「嘘といえるかどうかはわからん。君のいう嘘というのが何を意味するのかよくわからんから。大体この国では嘘という言葉はほとんど使われんのじゃ。全ては嘘だといえるし、半分は嘘を含んでいるとも言える。あまり意味のない言葉なんじゃ」
「真実なんて・・・。一つじゃないんだ。幾つも幾つもあるんだ」
唯一無二の、確かな真実なんて、どこにも、存在しない。
たしかにその通りです。そして・・・
真実が、確実な一つのものでないということは、真実の価値を少しも損ないはしない。
どういうことかというと・・・
ずっと前のことだけど、洋服を買いに行った時
店員さんから
「恰幅(かっぷく)がよろしいですね」と言われたんです。
そう言われて、なんか気持ちよかったです。
だけどそれってつまり
「デブですね」ってことですよね。
でも、そんなこと言われたらブチ切れます。
つまり、そーゆーことです。
真実はたくさんあって、ちょうどいいんです。
引用
裏庭 新潮文庫