宇宙エレベーター
SF作家のロバート・ハインラインがよく言っていたように、地球から高度160キロメートルまで到達できれば、太陽系のどこへ行くにも半分は過ぎたようなものだ。
というのも、どんな打ち上げでも、ロケットが最初の160キロメートルで地球の重力を振り切るのに、断トツに多くのコストがかかるからである。
それを過ぎれば、冥王星やさらに先へも、ほとんど惰性で進むことができる。
将来大幅にコストを減らせるひとつの手だては、宇宙エレベーターの開発だ。
宇宙エレベーターを初めて真面目に検討したのは、先見性に富んだロシアの科学者、コンスタンティン・ツィオルコフスキーだ。
1895年、エッフェル塔にヒントを得た彼は、地球と「天の城」とを結ぶ、宇宙へ伸びる塔を考えた。この塔を地面から上へ向って建造していけば、宇宙エレベーターが天へゆっくりと伸びていく。
宇宙エレベーターのアイデアを広く知らしめたきっかけは、アーサー・C・クラークの1979年の小説「楽園の泉」と、ロバート・ハインラインの1982年の小説「フライデイ」の刊行である。
だが、それ以上の進展はないまま、このアイデアは廃れていった。
この状況は、化学者がカーボンナノチューブを開発して一変した。
驚いたことに、カーボンナノチューブは鋼線よりはるかに強く、しかもはるかに軽い。
事実、その強度は宇宙エレベーターを支えるのに必要なレベルを上回っている。
科学者の見積もりでは、カーボンナノチューブの繊維は120ギガパスカルの張力にも耐えられる。これならとうてい破断は起きない。
この発見によって、宇宙エレベーター建造への挑戦に再び火がついたのである。
1999年には、NASAの研究で、宇宙エレベーターが真剣に検討されている。
引用
サイエンス・インポッシブル NHK出版