ギロチン
ギロチンで首を切られた瞬間、その人間は本当に絶命するのだろうか。それとも、切られた直後は、まだ生命があるのだろうか?
1905年、ボーリオという医学博士が、ある死刑囚の処刑直後に、切られた首を調べたのだ。
博士は報告書に書いている。
「死体の眉と唇は、五、六秒間、不規則な引きつりを見せた。それからやがて動かなくなり、顔はたるみ、瞼(まぶた)はかすかに開いて、白眼しか見えなくなった。
私が大声で名前を呼ぶと、瞼が少しずつ開き、ちょうど眠っている人間が目覚めたときのような、緩慢な動きを見せた。
やがてその目は私をじっと見つめた。
瞳孔(どうこう)は狭くなったが、死人のような無表情な目つきではない。たしかに生きている人間の目だった・・・」
同医師の報告によると、またしだいに瞼はふさがったが、再び大声で名前を呼ぶと、またも瞼が開き、じっと医師を見つめてから目が閉じられた。
しかし三度目には、呼んでももうピクとも動かなくなり、眼球はすでにガラス状になっていたという。首が切り落とされて、約30秒後のことである。
切り落とされた首に、しばらくは意識があるかどうかという点では、いまだに医学界の意見は一致していない。
切り落とされて酸素がかよわなくなった首が、死後二分間ほどはかすかに動くことも、ままある。しかしその後は、死んでしまうことは確かなのだ。
だが、問題なのは、その二分間である。
そのあいだ、切られた脳が、自分のこうむった惨状を記憶している可能性はあるのだ。
それにしても、人間が最後の瞬間まで、いま自分が死につつあるのだという認識をはっきり持ちながら死んでいかねばならないとは・・・?残酷な話ではないか。
引用
美しき拷問の本 角川ホラー文庫
調べたところ、この「美しき拷問の本」は図書館にはありませんでした。わたしはこの本をBOOKOFFで購入しました。古本は大好きで、神田神保町の古書店街には、よく行きましたよ。