大女優物語
オードリー・ヘプバーン、マリリン・モンロー、エリザベス・テイラー。
三人の美女たちは揃って女優としての重大な危機に出会っている。それは「演技力」をめぐる問題だ。
三人の女優に共通するのは美人であることと、その演技力が讃えられることはめったになかったことだ。
彼女たちは、ほとんど「地」で演じていたかのように思われている。実際、それに近かったであろう。
だが、三人がそれぞれ「演技力」なるものと格闘したのも事実なのだ。
アメリカ映画界にはアカデミー賞という、きわめてわかりやすい作品評価基準がある。その主演女優賞は、映画女優としての頂点を意味する。
オードリー・ヘプバーンはハリウッド・デビュー作でいきなり主演女優賞を獲った幸運な人ではあるが、その後は何度もノミネートされながらも二度目の受賞はならなかった。
マリリン・モンローはロシアで生まれた演劇理論「スタニスラフスキー・システム」と出会い、それを実践しようと長年努力を重ねる。
しかし、彼女はアカデミー賞にノミネートすらされなかった。
最も理論的な演技を試みた彼女が、最も評価されなかったのである。
誰もがスクリーンに映るマリリンは、当人そのものだと思った。それほどまでに完璧な演技であったことが認識されるのは、彼女の死後である。
エリザベス・テイラーは演技なるものをまるで考えようとしない人だった。しかし作品に恵まれ、アカデミー賞には何度もノミネートされる。
そして二度にわたりいやいや出演した作品で受賞するという皮肉を味わう。
引用
大女優物語 新潮社