いきなり夢が叶ったら・・・
生徒に勧(すす)められて読んでみました。
芋粥(いもがゆ) 芥川龍之介
平安朝という遠い昔、摂政藤原基経(せっしょうふじわらもとつね)に仕(つか)えている侍の中に、某(なにがし)という五位(ごい)がありました。
気が小さくて臆病な五位は、仲間だけでなく子供たちからもバカにされ軽蔑されていました。
しかし、そんな五位にも夢がありました。
芋粥(いもがゆ)です。
芋粥とは山の芋を中に切込んで、それを甘葛(あまずら)の汁で煮た、粥のことです。
当時はこれが、無上(むじょう)の佳味(かみ)として、上は万乗(まんじょう)の君の食膳(しょくぜん)にさえ、上せられました。
五位のごとき人間の口へは、年に一度、臨時の客のおりにしか、はいりません。
その時でさえ、飲めるのはわずかに喉(のど)をうるおすに足りるほどの少量です。
そこで芋粥をあきるほど飲んでみたいというのが、五位の唯一の欲望になっていました。
それを知った藤原利仁(ふじわらとしひと)は、それならばと、五位の夢を叶(かな)えてやることにしました。
なみなみと海のごとくたたえた、およそ、二、三千本の山芋でつくった、恐るべき量の芋粥である。
これを、まのあたりに見た五位は、まだ、口をつけないうちから、すでに満腹を感じてしまい
「どうぞ、遠慮なく召し上がってくだされ」とすすめられても、お椀一杯分の芋粥も飲むことは出来ませんでした。
せっかく夢がかなったんだから、お腹いっぱい食べればいいのに・・・とも思いますが
芋粥の夢を、別のものに置き換えてみると五位の気持ちがわかります。
武道館で満員の観客を前にコンサートを開きたいんです。
わかりました。さあ、どうぞ。
と、いきなり本当にその夢が実現してしまったら、緊張のあまり手はふるえ、足はすくみ、声はかすれ、言葉はしどろもどろとなり、コンサートどころじゃなくなるような気がします。
芋粥は、そういった人間心理を示唆しているのでしょうね。
因(ちな)みに、この芋粥の話題が出た日の夕飯は、冷凍のすりおろした山芋1㎏を買って来て、麦ごはんに山ほどかけて、腹いっぱい食べました。ンまかったです。
いくらなんでも食いすぎです。それに芋粥は、そーゆー話じゃありません。
それでは、また。