玉手箱(魂出匣)と浦島伝説
玉手箱を開けた浦島太郎は、なぜおじいさんになってしまったの
毎日新聞コラム「余録」の解釈がおもしろいです。
「玉手箱」を辞書で調べ、その語源の欄を見ると、「タマデバコ(魂出匣)の意か」という古い辞書の説を紹介していた▲
昔、魂を身の外に出して保存すると不死身になるとの信仰があった。「外魂(がいこん)」信仰というそうだ。
浦島太郎が玉手箱を開けて老人になったのも、自分の魂の入った箱を知らずに開けた話と解釈することができる。つまり魂出箱である▲
浦島太郎を深掘りする
浦島伝説について、冨倉徳次郎 博士 (駒沢大学名誉教授) の解説を紹介させていただきます。
『浦島太郎』は日本の代表的童話ですが、そのもとになった浦島伝説は、世界中に広く方々の民族にそれぞれの形で伝わっている神婚説話(しんこんせつわ)【神仙(しんせん)と人間とが結ばれた話】です。
それは古く『丹後風土記(たんごふどき)』も雄略(ゆうりゃく)天皇のときのこととして記され、また古伝説では、丹後の国(京都府)の漁師 水江浦島子(みずのうえのうらしまこ)が大亀の導きで竜宮城に行き、竜宮城の姫君亀姫(かめひめ)と結ばれたという話になっています。
それが室町時代の「お伽草子(おとぎぞうし)」にも書きとめられ、そこでは漁師は浦島太郎という名になり、亀姫も乙姫(おとひめ)という名になって、今日、童話として伝えられるような形にまで成長したわけです。
竜宮城とは
竜宮というのは、青い海原の底にあるといわれる海神の宮殿です。これも世界中の海洋民族が古(いにしえ)夢見た一つの楽園です。
日本では、兵庫県の明石の海や、この浦島伝説に出てくる丹後の海のような風光明媚(ふうこうめいび)な海の底にあるという話が有名です。
その海神としては竜神が当てられています。彼は魚族の頭(かしら)で、その竜宮は不老不死の国とされています。
この話には、乙姫が故郷に帰ろうとする浦島に玉手箱を渡すくだりがあり、その玉手箱をあけると白い煙が出て、美少年の浦島太郎が白髪の老人となってしまいます。
この玉手箱には、実は浦島太郎の七百歳という年齢が封じ込められていた*1というのですが、ここに竜宮城を不老不死の国としている考え方が見えて、この話に神仙譚(しんせんたん)としての夢を与えています。
鶴亀とは
古伝説では、乙姫の言葉にそむいて玉手箱をあけた浦島は、老衰(ろうすい)し、苦悶(くもん)して、その場で生命を終わることになっています。それがもとの形でしょう。
しかし「お伽草子」では、浦島太郎は白髪の老翁(ろうおう)となり、さらに美しい鶴(つる)と化して蓬莱(ほうらい)の山に遊び、これも亀の姿にかえった乙姫とともに幾久(いくひさ)しく生き、ともにめでたく明神(みょうじん)として祭られるという結びになっています。
だからこそ、おめでたいもののたとえに「鶴亀」と申すのですね。
参考文献
母と子の世界のカラー童話シリーズ うらしまたろう 研秀出版
*1:
童話の浦島太郎では「竜宮で暮(く)らした三年は地上での三百年」になっています