ゴジラと川端康成とプロメテの火
伊福部昭とは
川端康成「舞姫」に伊福部昭の名前が出てきたんでビックリしました。
引用させていただきますね。
舞姫 川端康成
波子は二日つづけて、帝劇へ行くことになる。
今日は、江口隆哉、宮操子の公演の第一夜で、舞踊家たちや、舞踊批評家、音楽記者など、招待客のうちには、波子の知り人も、少くないだろう
前に短い踊りがあって、「プロメテの火」は、第三部だった。*1
菊岡久利(きくおかくり)作、伊福部昭(いふくべあきら)作曲で、東宝交響楽団の演奏だった。
ギリシャ神話のプロメテを、四景に描いた、舞踊劇だが、プロロオグの郡舞から、古典バレエとのちがいに、品子は目をひかれた。
「あら。スカアトがつながっているわ。」
と、品子はおどろいて言った。
十人ばかりの女が、プロロオグを踊る。その女たちのスカアトが、つながっているのだった。
一つのスカアトのなかに、幾人もの女がはいって、踊るのだった。
生きた波をひるがえしながら、横にも、ひろがったり、すぼんだりして、暗い色のスカアトは、なにか象徴的な前奏に見えた。
そして、第一景は、火を持たない人間の、暗黒の郡舞、第二景では、プロメテが枯れあしで、太陽の火を盗む踊り、その火を与えられた、人間の歓喜の群舞が、第三景であった。
火を盗んで、人間に与えたプロメテは、終りの第四景で、コオカサスの山上の、岩にしばられている。
第三景の火の踊りが、この舞踊劇の盛りあがる、山であった。
暗い舞台の正面に、プロメテの火が、赤く燃えている。その火が、人間の手から手へうつされてゆく。
火を与えられた人間の群が、やがて舞台にあふれて、火の歓喜を踊る。
五六十人の女に、男も加わって、手に手に、燃える火をかざして踊り、その焔(ほのお)の色で、舞台も明るくなった。
波子も品子も、舞台の火が、自分の胸にも、燃えひろがるように感じた。
いしょうはみな地味だから、薄暗い舞台では、裸の手と脚との動きが、なまなましく生きた。
この神話の踊りの、火はなにを意味するのだろうか。プロメテはなにを意味するのだろうか。
終った後で、品子は頭に残る、踊りを追いながら、そう考えてみると、どのような意味にも、考えられそうに思えた。
「人間の火の踊りがあって、もう次の場で、プロメテが、山の岩にしばられているのね。」
と、品子は波子に言った。
「黒わしに、肉や肝を食われて・・・。」
「そうね。四景とした構成も、よかったわね。場面から場面の移りが、はっきりと印象的でしょう。」
二人はゆっくりと出た。
四人の女学生が、品子を待っていた。
「あら。来ていたの?」
と、品子は少女たちを見て、
「さがしてはみたのよ。見つからないから、帰ってくれたんだと思ったのに・・・。」
「三階にいたんです。」
「そう?おもしろかった?」
「ええ。よかったわね?」
と、一人の少女は、つれの少女に問いかけながら、
「でも、気味が悪いようで、こわいところもあったわね?」
「そう?早くお帰りなさい。」
かなり詳細な描写です。
ウィキペディアによると、「プロメテの火」の初演は、1950年12月11日、12日、帝国劇場、江口隆哉・宮操子舞踊団公演。 とあります。
おそらく川端康成は、今日は、江口隆哉、宮操子の公演の第一夜と小説の文章にもあるように、「プロメテの火」の初日を観劇したんでしょうね。
ゴジラマーチ原曲について
「舞姫」は昭和26年に、「ゴジラ」は昭和29年に発表されました。
伊福部昭は、まだこのとき「ゴジラ」を作曲していませんでした。
が、
ゴジラマーチとそっくりな音楽が、昭和23年に伊福部昭の作曲で発表されています。
プロメテの火 と プロメテウスの火
ギリシャ神話は、著作権がフリーで自由に脚色することが可能です。
「プロメテの火」とギリシャ神話「プロメテウスの火」のストーリーは、かなり違っていますが、
どうやら「プロメテの火」には、ヘラの嫉妬で、牝牛の姿に変えられた「イオのエピソード」が盛り込まれているようです。
舞踊劇 プロメテの火 あらすじ
コオカサスの山上の、岩にしばられた、プロメテである。
荒わしに、肉や肝をついばまれ、風に打たれ、雪にさらされている。
山のふもとを、白い女牛(めうし)が通る。
大神の妃(きさき)ジュノオのしっとで、美しい乙女のアイオが、このような姿に変えられた、女牛である。
プロメテは、アイオの女牛に言う。
南に行き、さらに遠い西、ナイル河のほとりに出よ。
そこで、女牛は乙女の姿にかえり、国王の妃となり、その血筋から、勇士ハアキュリイズが生まれて、プロメテの鎖を、たち切るであろう。
女牛のアイオは、宮操子が踊った。
女牛に変えられたアイオとは「イオ」【デジタル大辞泉】より
大神の妃ジュノオとは、ゼウスの妻「ヘラ」【Weblio英和辞書】より
勇士ハアキュリイズは「ヘラクレス」です。【デジタル大辞泉】より
イオとは、どんな女性?
ギリシャ神話で、ゼウスの妻ヘラに仕えた美しい女官です。
ゼウスの愛人でゼウスに愛されますが、ヘラに浮気がばれそうになったゼウスは、イオを牝牛に変えてごまかそうとします。
が、
ヘラはごまかせません。
ヘラのおくった虻(アブ)に追われ、刺されまくった牝牛のイオは、世界中を逃げ回り、最後にエジプトで人間の姿にもどされるのです。
~デジタル大辞泉の解説より~
以前のブログ「パンドラの箱とプロメテウスの火」に新たな見解が加わりました。すごくうれしいです。
いろいろ深掘りすると楽しいです。それでは、また