今回は18禁です!
愛と美の女神アプロディテは、切断され海に投げ捨てられた男根から白い泡が生じ、その泡から生まれたという話は、みなさんよくご存じのことと思います。*1
知らねーよ、初めて聞いたよ。
ではなぜ、男根が切断され海に投げ捨てられるに至ったのかことの顛末(てんまつ)をお話しいたしましょう。
・・・それは知りたい。
愛の女神アプロディテ誕生💗
大地の女神ガイアと天空神ウラノスが結ばれ、子供が生まれました。百腕巨神ヘカトンケイルと一眼巨神キュクロプスです。
しかしウラノスは、ガイアとのあいだに生れた醜い子たちをはじめから嫌っていました。ウラノスは子供たちを大地の果てにある奈落の底タルタロスに幽閉してしまいます。
女神ガイアは、この不幸に呻(うめ)き苦しみます。そこでガイアも悪知恵を思いつき、大きな鋭い刃のある鎌(かま)を作って、自分の子供たちティタン神族に決起を促します。
ウラノスを恐れて、ただ俯(うつむ)くばかりの子供たちの中、ひとり勇気を奮ったのが末っ子のクロノスでした。
ガイアは頼もしいわが子に大鎌を渡し、待ち伏せにうってつけの場所に隠し、策略を授(さず)けます。
夜になり、ウラノスがやってきて、愛に燃えてガイアを抱き、彼女の全身をおおったとき、息子クロノスが隠れ場から左手を伸ばし、男根をつかみ、右手に大鎌をとって、父の男根をすばやく切り取り、背後へ投げたのです。
こんなもんポイだ
お宝捨(す)てちまいやがった
ウラノスの切り落とされた男根は、寄せては返す海の波に落ちました。
男根は長いあいだあちこち漂っていましたが、
白い泡【アプロス】が男根のまわりに集まって、そのなかから一人の乙女が生まれたのです。
神々も人間も、泡【アプロス】から生まれた彼女をアプロディテと呼ぶことにしました。
ひえー
因(ちな)みにアプロディテは愛と美の女神ですが、泡のもとが男根ということから暗示されるように、その愛は純愛ではなく、どん欲なまでの性愛なんですね。
以上、愛と美の女神アプロディテ誕生の物語でした。
ギリシア神話は異説だらけ。なぜ?
昨日のブログの続きだよ。
ギリシャ神話にはいろんなエピソードがあります。昨日紹介したオリオンが星座になった物語とは違う異説を2つお話します。
1.オリオン。
この荒っぽい狩人は地上の動物をすべて根絶やしにしてしまいそうであった。
オリオンがクレタ島で狩りをしたとき、アルテミスやレトもいっしょであった。
そこで、大地はオリオンに対して、さそりを産んだ。
このサソリが狩人オリオンをさし、のちに、オリオンといっしょに天にのぼり星座になったという。
2.あるいは、オリオンがアルテミスの衣装をつかんだとき、アルテミスが暴行者オリオンにさそりを送ったという説もあります。
なぜ異説があるのか
ギリシャ神話には、全体をカバーする単一の原典はないからです。
ギリシア神話は、
オルペウス
ヘシオドス
ソポクレス
エウヘメロス
アポロニウス
アポロドウス
パウサニアス
ヒュギーヌス
などの叙事詩人や劇作家が、西暦でいえば紀元前8世紀から紀元前後という、何百年もの非常に長い年月にわたり創作した物語です。
日本神話は「古事記」と「日本書紀」を主な出典とすることから、記紀(きき)神話とも呼ばれます。現存する両書の最古の写本を定本・原典としてもおかしくありません。
またユダヤ神話は、ユダヤ教の「聖書」、キリスト教でいう「旧約聖書」を出典としています。*1
これに対してギリシャ神話には、全体をカバーしうる単一の原典はないんです。
ギリシャ神話は、口頭で伝承されてきた宗教神話と、演劇の台本として創作された物語からなり、演劇は悲劇とサテュロス劇(喜劇)からなります。*2
ほかにも断片しか伝わっていない様々な伝承や、後世付け加えられた物語が存在します。また有名な逸話の中にはローマ時代に編纂(へんさん)された「変身物語」によるものも多くあります。
決定版がないために辻褄(つじつま)が合わず、神々の関係にも相違が多数あるのが「ギリシア神話」なんですね。
いろんなことを知るのって楽しいね。それでは、また。
参考文献
ギリシア神話の神々 河出書房新社
ギリシアの神話——神々の時代 中公文庫
眠れなくなるほど面白いギリシャ神話 日本文芸社
太宰治とアルテミスとオリオン
カチカチ山 太宰治
ギリシヤ神話には美しい女神がたくさん出て来るが、その中でも、ヴイナスを除いては、アルテミスという処女神が最も魅力ある女神とせられているようだ。
ご承知のように、アルテミスは月の女神で、額(ひたい)には青白い三日月が輝き、そうして敏捷(びんしょう)できかぬ気で、一口で言えばアポロンをそのまま女にしたような神である。そうして下界のおそろしい猛獣は全部この女神の家来である。
けれども、その姿態は決して荒くれて岩乗(がんじょう)な大女ではない。
むしろ小柄で、ほっそりとして、手足も華奢(きゃしゃ)で可愛く、ぞっとするほどあやしく美しい顔をしているが、しかし、ヴイナスのような「女らしさ」が無く、乳房も小さい。
気にいらぬ者には平気で残酷な事をする。
自分の水浴しているところを覗き見した男に、颯(さ)っと水をぶっかけて鹿にしてしまった事さえある。
水浴の姿をちらと見ただけでも、そんなに怒るのである。手なんか握られたら、どんなにひどい仕返しをするかわからない。
こんな女に惚れたら、男は惨憺(さんたん)たる大恥辱を受けるにきまっている。けれども、男は、それも愚鈍の男ほど、こんな危険な女性に惚れ込み易いものである。そうして、その結果は、たいていきまっているのである。
疑うものは、この気の毒な狸を見るがよい。
そんな男嫌いなアルテミスでしたが・・・
アルテミスとオリオンの恋物語
ポセイドンの息子オリオンは巨人で美男子。普段は男になびかないアルテミスもオリオンにほれ込み夢中になってしまいます。
その様子を見てびっくりしたアルテミスの弟アポロンは、「な、なんだあいつ。男なんか大キライとか言っときながらメロメロじゃんか」と彼女をののしりましたが、いくら言っても効き目はありません。
たまたま、海のかなたに黒い点のようにオリオンの頭が見えているのをアポロンが見つけ、姉のアルテミスにこの標的をねらって、弓を射ようともちかけました。
アルテミスは弓矢の名手で狩猟の女神でもあったのです。
アルテミスはよもや頭とは思わなかったので、オリオンの頭を射てしまいます。
恋人を殺してしまったアルテミスは嘆き悲しみ、オリオンを空に昇らせ星座に加えました。
それがオリオン座なんですね。
ただし、
ギリシャ神話にはいろんなエピソードがあり、さそりがオリオンを刺し、のちに、オリオンと一緒に天にのぼり星座になったという物語もあるんです。
なんでいろんなエピソードがあるの
それは、明日のブログで紹介します。
お熱いのがお好きとギリシャ神話
ギリシャ神話の神や英雄の名前が、アニメや映画のキャラに使われているのは一昨日(おととい)のブログでお話しました。
それは、マリリン・モンロー映画の最高傑作といっても過言ではない「お熱いのがお好き」(1959年)も、そうなんですね。
「お熱いのがお好き」あらすじ
禁酒法時代のシカゴ。
聖バレンタインデーの虐殺を目撃したため、マフィアに追われるサックス奏者のジョー(トニー・カーティス)とベース奏者のジェリー(ジャック・レモン)は、シカゴから逃げ出すために仕事を探しますが、団員を募集していたのはフロリダに向かう全員女性の楽団だけでした。
女装してジョセフィン、ダフネとなって女性楽団にもぐりこんだ二人は、
その楽団の女性歌手でウクレレ奏者のシュガー(マリリン・モンロー)に恋をしてしまいます。
フロリダでジョーは再び変装し、
シェル石油の御曹司「ジュニア」だと偽(いつわ)ってシュガーに求愛します。
一方ダフネに変装中のジェリーは、本物の大富豪オズグッド3世(ジョー・E・ブラウン)から求婚されてしまいます。
シカゴからフロリダへ、マフィアの手からうまく逃れたかに見えた二人でしたが、彼らが滞在するホテルにマフィアの別名団体である「イタリアオペラ愛好会」が訪れました!
ダフネのせりふ
マフィアに捕まったら壁の前に並んでダダダ・・・警察が死体を見つけて裸にする。ああ恥ずかしい
女装してるし、驚(おどろ)くだろうね。
さあ、どうなるという大爆笑コメディで、モンローの映画では一番のお気に入りです。
そして・・・
ギリシャ神話と関係があるのは、ジェリー(ジャック・レモン)が女装したときに名乗ったダフネです。
「お熱いのがお好き」ダフネのせりふ
男なんて大嫌い
毛むくじゃらで手が早くて
ねらいは女のアレだけ
ベルニーニの彫刻「アポロンとダフネ」
男なんて大キライアポロンとダフネ
オリンポス12神の一人、アポロンは絶世の美男子で、常に弓矢と竪琴(たてごと)を携えていました。
ある日、悪龍ピュトンを退治していい気になっていたアポロンは、同じく弓矢を得意とするエロスをからかってしまいます。
「私は先日恐るべき巨大竜をやっつけたが、お前はせいぜい恋の矢を射ることしかできないだろ?いっちょまえに弓矢の達人ぶるのはやめたまえ」
これに腹を立てたエロスは、恋慕の情に取りつかれる金の矢をアポロンに、嫌悪の情に取りつかれる鉛の矢を、川の神ペネイオスの娘ダフネに放ちました。
たちまちアポロンはダフネに夢中になり、全力でダフネを追いかけますが、ダフネは「絶対に結婚したくない」と全速力で森の中を逃げ続けます。
ダフネは類稀(たぐいまれ)なる美少女でしたが、恋愛を汚らわしく思い、永遠の処女でいる誓いを立て、父からも許しを得ていました。
そんな彼女に呪力が加わったのですから、アポロンがどんなに言い寄ろうと、拒まれるのは当然でした。
強硬手段をも辞さないアポロンから必死に逃げ回るダフネでしたが、ついに力尽き、今にもつかまりそうになったとき、父に最後の願いを叫びます。
「わたしをこの男から守って。わたしの美しさを他人のものにしないで」
次の瞬間、ダフネは1本の美しい樹木、月桂樹に変わりました。
それ以来、月桂樹はアポロンの大好きな木になり、アポロンはその枝で身を飾り、月桂樹を冠にして戴くようになったということです。
・・・というわけで
「お熱いのがお好き」で、ジャック・レモンが演じたダフネも、大富豪オズグッド3世の求愛から逃げ回る役でしたね。
以上、「お熱いのがお好き」と「ギリシャ神話」の関連性でした。
参考文献
ギリシア神話の神々 河出書房新社
ギリシアの神話——神々の時代 中公文庫
眠れなくなるほど面白いギリシャ神話 日本文芸社
「お熱いのがお好き」の背景となった禁酒法時代と、スペイン風邪の関連について、毎日新聞 余録より抜粋させていただきます。
米国でスペインかぜが猛威を振るったのは禁酒法の施行前夜だった。
感染防止で酒場の営業が禁じられ、禁酒運動に勢いがついた。
一方、一部地域ではウイスキーが治療に有効と薬品扱いされた。
医師の処方で飲酒する手法は禁酒法の時代にも続いた▲
「お熱いのがお好き」でも、病気を疑われたダフネが「お酒を飲んで治そう」とモンローに提案し、ドンチャン騒ぎに発展するシーンがありましたね。
アポロンは「オリンポスのポロン」原作:吾妻ひでお(アニメのタイトルは『おちゃめ神物語コロコロポロン』)のお父さんとしても知られていますね。
ハンク・アーロン氏
ハンク・アーロンみたいな選手になりたいんだ。
「がんばれ!ベアーズ」(1976年) より
ハンク・アーロン氏がお亡くなりになりました。東京新聞のコラム「筆洗」より抜粋させていただきます。
野球の神様ベーブ・ルースを超える選手となった。通算本塁打七百五十五本。ブレーブスの強打者ハンク・アーロンさんが亡くなった。八十六歳
▼「ルースの本塁打記録を追いかけることは最高の喜びとなるはずだったが、最悪だった」と書いていた。白人のルースの記録を黒人が塗り替えるのは許せない。そう考える人々がいた。「引退しろ」「キング牧師は早死にした」。届いた九十万通の手紙。大半が脅迫や嫌がらせだった
▼自身の苦い経験からだろう。王貞治選手がアーロンさんの通算本塁打記録を抜いた時、一切、ケチをつけず、称賛した。アーロンが認めた。当時の日本の少年にはそれがどれほどうれしかったことか
ご冥福をお祈りいたします。
丙午(ひのえうま)の娘は魅力的💗
南方の火 川端康成
「午(うま)が祟(たた)っていたんですわね。」
自分が丙午(ひのえうま)生まれのことを思い出しているのである。
「丙は陽火なり。午は南方の火なり。」と「本朝俚諺(りげん)」に出ている。火に火が重なるから激し過ぎるというのだ。
弓子は火の娘なのだ。
———美しくて、勝気で、強情で、喧嘩好きで、利口で、浮気で、移り気で、敏感で、鋭利で、活発で、自由で、新鮮な娘、こんな娘が弓子と同い年の丙午生まれに不思議に多い、丙午の娘は戦いの娘だ。
彼女らが男を殺すのは当然である。
「南方の火」川端康成
彼女らが男を殺すのは当然である。
殺すとは、いい意味の比喩(ひゆ)である。私は丙午の娘の悪口を云ったのではない。彼女らが最もよき女性であることを讃美(さんび)したのである。
「丙午(ひのえうま)の娘讃(さん)」川端康成
知識がふえれば深読みにつながる
美しくて、勝気で、強情で・・・。これって僕の大好きな「美しさと哀しみと」の坂見けい子と「女であること」のさかえちゃんの性格とまったく同じです。
川端康成も、丙午の娘に抗(あらが)いきれない魅力を感じていたのでしょう。
そう思ったのは、僕が「美しさと哀しみと」と「女であること」を先に読んでいたからかもしれません。
「南方の火」を先に読んでいたら、今回引用した文章は「たんなる丙午(ひのえうま)の迷信」として読み飛ばしてしまったことも考えられます。
つまり、知っていることが増えれば、気がつくことも増えて、結果的に文章の解釈も深まっていくと思いますよ。
因(ちな)みに、弓子という名前は「浅草紅団」*1 に出てくる不良少女のボスと同じ名前です。「浅草紅団」の弓子も鋭い刃物のような娘でしたね。