ウソつき!!!!
太宰作品『晩年』の中の一編、『ロマネスク』【注】
この作品の中に、「嘘の三郎」という男が出てきます。
江戸深川の漢学者の息子として生まれた三郎は、子どものころから事あるごとにウソをつき、それが不思議と、そのまままかり通ります。
長じては、無心のためのウソの手紙を代筆してもうけたり、「人間万事嘘は誠」というウソだけで世を渡る男を描いた洒落本(しゃれぼん)を出版したり…。
「三郎の嘘はすでに神に通じ、おのれがこうといつわるときにはすべて真実の黄金に化していた」。
やがて、漢学者として一生を過ごしてきた父が死にます。
その遺書には、「わしは嘘つきだ。偽善者だ」と書かれていました。中国の学問など、信じてはいなかったというのです。
父を葬りながら、三郎は考えます。
嘘は酒とおなじようにだんだんと適量がふえて来る。次第次第に濃い嘘を吐(つ)いていって、切磋琢磨され・・・・
三郎はこれを機に、「嘘のない生活をしてやろう」と考えます。
そしてすぐに「その言葉からしてすでに嘘であった」と気づきます。その結果、「無意志無感動の痴呆の態度」で生きるしかなくなるのです。
ウソの技術を高め合っているのは、この親子だけではないでしょう。今日もウソを「切磋琢磨」するために刀ややすりを振るう音が、あちこちから響いてくるような気がします。
参考文献
太宰治の四字熟語辞典 三省堂
【注】「ロマネスク」・・・同人雑誌「青い花」の1934<昭和9>年11月に発表された短編。「晩年」新潮文庫、「太宰治全集1」ちくま文庫、に所収。
「ウソをつかないと誓ったことからしてウソ」という話をよく耳にしますが、もしかしたら元ネタは・・・。
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