間違いとニュートンとアインシュタイン
間違うからこそ、正解が見つかる
宇宙的な視点で、この問題を考えてみましょう。
ニュートンの法則は地球上では正しい
落ちるものがリンゴであれ、スポンジであれ、空気による摩擦抵抗を考慮しなければ、ニュートンの時代の地球上では、彼の公式が誤っていることを証明できるような実験はもちろん、それに異を唱えられるような実験さえ皆無でした。
でも、地球の外ではどうでしょう。
太陽系の惑星
太陽系には8つの惑星があります。水星以外のすべての惑星は、まさしくニュートンの公式どおりに運動しています。
しかし太陽に一番近い惑星、水星はそうではありません。
水星の公転軌道はニュートンの計算と、ほんのわずか違っているのです。
ニュートンの方程式は、物体と物体とがどのように引きあうかを定量化するものですが、重力が実際になんであるかについてはいっさい関知していないのです。
どうして水星は、他の惑星と違ったことをしたがるのでしょう。ニュートンはその事実に気がついていましたが結局、説明を見つけられずに終わりました。
アインシュタインの登場
ニュートンの公式は200年近くのあいだ何の問題もなく使われてきて、水星の事例にしても、大半の人の生活にはほとんど影響を与えてはいませんでした。
ところがあるとき、ひとりの科学者が、重力に関してかなり奇妙な新しいアイデアを思いついたのです。
彼の名はアルベルト・アインシュタイン。
そして物質と宇宙の局所的な幾何学構造をつなぎあわせて重力理論とした説が「一般相対性理論」です。
ところが・・・
アインシュタインも間違っている?
かんたんにいうと、アインシュタインの理論もニュートンと同じように「ある条件のもとでは」正しいのですが、その条件をはずれてしまうと、説明できない部分が出てきてしまうんです。
1970年代以降は、アインシュタインの一般相対性理論が破綻(はたん)すること、この理論が達成できるものには限界があることもわかってきました。
アインシュタインの理論はどこで破綻するのか。
ブラックホールの内側と、ビッグバン以前の宇宙です。
その一般相対性理論だけでは足りない部分には、新しい理論が必要とされています。場の量子論と、あと何かです。それがどういう理論なのか、まだわかりません。
実際、ありのままを正直に言うと、いまだ誰もこの宇宙のことを本当に理解してはいないのです。
ヒッグス粒子や重力場など、予言されていたものが見つかったときにみんながこんなに喜ぶのは、たぶんこれがひとつの理由なんでしょう。
いまあなたが自宅のソファにいようと、熱帯の浜辺にいようと、そのあなたの身のまわりの現実でさえ、じつは謎に包まれているんです。
そして、そうした「すべて」を説明できる「万物の理論」が、いまだ確立されていないのは事実です。
「車いすの天才物理学者」ホーキング博士の元で理論物理学を学び、のちにホーキングのベストセラー「宇宙への秘密の鍵」の共著者となった、フランスのサイエンスライター、クリストフ・ガルファールはこう述べています。
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間違いのおかげで、われわれは未知のものをのぞきこむことができる。
もしニュートンがいなかったら、比較できるものがなかったのだから、水星の軌道のわずかなずれなど誰も気づきもしなかっただろう。
もし水星の軌道がニュートンの軌道とずれていなくて、もしニュートンが高速で物体が運動するときに何が起こるかを説明できずにいなかったら、宇宙の素地が宇宙に含まれているものとどう相互作用するかについてのアインシュタインの洞察が世に出てくることもなかっただろう。
もしアインシュタインの方程式がなかったら、われわれの宇宙に歴史があるという事実を知らないままでいただろう。われわれの宇宙が全体としてどう機能しているかについての像を組み立てることもなかっただろう。
そして、もしその宇宙像がなかったら、あなたは重力波もダークマターもダークエネルギーも見つけていないだろう。
間違いは、正解を見つけるのに必要なものであり、前に進むのに必要なものなのだ。
間違いがあってこそ新しい正解が見つかる
演劇の話をしますと…
「ガリレイの生涯」などで知られる劇作家ブレヒトは、まさしくそういう人でした。
ブレヒトは「お変わりがないですね」と言われて愕然(がくぜん)とし、「私は次の誤(あやま)りを準備しています」といって恥じないコイナさん*1のような人でした。
ブレヒトは、すでに完成した自分の作品に対しても、後に到達した<成長した>自分の立場から批判訂正をし、次々に改作していった弁証法的な作家だったんです。
成長したから、進歩したから、間違っていたことがわかる。
失敗をおそれず前向きに
参考文献
138億年宇宙の旅 早川書房
Voice actor laboratory 声優演技研究所