シュルツ司令官
アニメ「宇宙戦艦ヤマト2199」
宇宙好きとしては、その背景に登場する様々なシーンも、とても気になる点です。本書は、科学考証を担当した半田利弘氏が天文学や物理学の立場から背景事情も含めて紹介したものです。
どこまでが現実なのか、どこからがアニメ制作者の想像なのか、それを知る一助になれば幸いです。
頁3-9
冥王星【実在】
太陽系外縁部にある準惑星。
太陽系の8大惑星は互いの公転軌道面がほぼ揃っていますが、冥王星は20度ほど傾いており、太陽からの距離が1.5倍以上も変わるなど、8大惑星とは著しく異なる特徴を持っています。
このため、発見当初から「惑星とはいえ例外的」との扱いを受けていました。*1
冥王星の特徴と似た天体が海王星軌道より外で数多く見つかるようになると、冥王星を「例外的な惑星」とするよりも、新グループ【EKBO】の代表と考えようとする意見が強くなります。
こうして、今では惑星の末席から太陽系外縁天体の筆頭と扱われるようになったのです。*2
頁42
冥王星の衛星【実在】
「宇宙戦艦ヤマト2199」では、ガミラス冥王星前線基地のシーンで背景にカロンとおぼしき天体が描かれています。
ここから基地が冥王星のどこにあるのかを、かなり絞り込むことができるので、このような映像は極秘映像になっていたはずです。
基地の責任者であるシュルツ司令官からは、基地勤務者全員に対して風景写真撮影を禁止する指令が出ていたに違いありません。
頁44-45
つまりこれは、数学で計算すれば軍事的に位置を割り出せるということです。すごいですね。
冥王星だとちょっとピンときませんので、地球に置き換えて考えてみましょう。ヤマトと惑星の大きさを考えてみればよくわかります。
基地の場所を特定しなければ戦えません。アメリカなのか、日本なのか、オーストラリアなのか、もしかしたら太平洋の底にかくされた海底基地かもしれません。
何千、何万という大艦隊なら別かも知れませんが、ヤマト一隻で広大な冥王星のどこにあるのかわからない基地を攻撃することは大変です。
そうなるとシュルツ司令は、基地の場所を特定されないよう写真撮影を禁止するのではないか?実際の技術とフィクションを組み合わせた、楽しい記述だと思います。
EKBO【実在】
海王星軌道の外側には小型の天体が多数あります。存在を予想した2名の天文学者にちなんで、この名で呼ばれます。
太陽系の天体を距離と重さを考慮して内側から順に見ていくと、海王星から外側に冥王星しかないのは、あまりに唐突である・・・。
こうした考えを持ったのがエッジワースとカイパーです。
1982年に最初の天体が実際に発見されて以来、続々と見つかるこの類の天体をエッジワース・カイパーベルト天体、略してEKBOと呼ぶようになりました。
「宇宙戦艦ヤマト2199」では、この天体の軌道を人為的に変えて地球にぶつける兵器が登場し、遊星爆弾と名付けられました。
頁46-47
遊星爆弾【架空】
その材料はEKBO。
EKBOのほとんどは海王星の軌道より内側にはあまりやって来ませんが、力を加えれば、軌道が変わり、うまく狙えば地球に衝突することもあり得ます。
ガミラスの冥王星前線基地では、光線砲【反射衛星砲】によってEKBOの表面を加熱し、蒸発して吹き出したガスにより公転運動を減速させ、太陽の重力に引かれて太陽の近くまで達する作業を日常的に行ってきました。
もっとも、公転速度を止め、太陽に落ちるに任せるのでは地球近くに達するのに、90年近くを要することになります。
ガミラスの攻撃は数年前から始まったと語っていますから、これでは間に合いません。時間短縮のためには積極的に太陽方向へ押す必要があるのです。
実際、地球の冥王星探査機ニューホライズンは出発から9年後に冥王星付近を通過します。
これには途中の惑星の重力を利用した加速が使われています。遊星爆弾も、この技術を用いているのでしょう。
頁50-51
「鉄腕アトム」にあこがれた子供たちが、ロボット工学の道に進んだことはよく知られています。
同じように、空想であり虚構であるアニメの設定を、現実の科学と照らし合わせて考えていく試みは素晴らしいと思います。ワクワクしますね。
反射衛星砲【架空】
しかし、本来の目的は遊星爆弾の発射装置だ。
反射衛星砲は、EKBOを加熱して気化したガスが噴出することで、その軌道を変え、遊星爆弾として発射するための装置です。
地球に衝突させるには、基地から直接見ることができないEKBOでも狙える必要があります。
EKBOの破壊ではなく加熱が目的だと考えると砲弾を撃ち込む必要はなく、エネルギー光線を当てれば目的は果たせます。
そこで、冥王星周囲に多数の人工衛星を飛ばし、それに搭載した反射鏡で光線を反射する方法が考えられました。
これでヤマトをあらゆる方向から攻撃したのです。
元々は異なる目的で作られたものでも、必要に応じて転用して成果を挙げる、この点で冥王星前線基地のシュルツ司令はかなりの傑物(けつぶつ)だといえます。
だからこそ、冥王星基地を任せられていたのかもしれませんが、彼を重用できなかったところがガミラス軍の最大の弱点だったのかもしれませんね。
頁52-53
シュルツ司令官
「宇宙戦艦ヤマト2199」シュルツ司令官役の声優、島香裕氏が永眠されました。
島香裕氏には、ワークショップ声優演技研究所 設立時に大変お世話になりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
参考文献
宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学 誠文堂新光社
138億年宇宙の旅 早川書房