すごい先生とは
東大の理学博士で勲章までもらっているのに、くだらないプライドがなく、自分を超える才能を持っているであろう生徒にも嫉妬せず、謙虚に生徒に教えを請う教授のお話です。他人や年下の者をバカにしない、見下さない、すごい人だと思います。
彌永昌吉 東京大学 理学博士
鶴見俊輔
わたしが中学1年のとき、同じ教室に雨宮一郎(あめみやいちろう)という友だちがいた。彼についてきいたことがあるんだ。まだ学生だったころの話でね。
大学に彌永昌吉(いやながしょうきち)という先生がいて、数学の世界ではすごい仕事をした人なんです。
彌永さんが、ある日、雨宮君のところにきてね。雨宮は学生なんだ。その雨宮に、先生の彌永さんが「君のいうことは、どうもおもしろいことのように思えるんだけど、ぼくにはよくわからないんだ。それで、今度の日曜日にぼくの家にきて、ゆっくり説明してくれないか」っていった。
雨宮君は日曜日に、この先生の家に行って、半日かけてゆっくり自分の考えを話した。そういうんだね。
こういう先生って、すごい。
東大の数学の教授で、実績のある人なんだ。
たしかに、数学の前線っていうのは、できる人なら20歳そこそこでトップにおどりでる。教授といっても、前線から遅れることはあるんだね。
そういうところにいて、「君のことばはよくわからないから、日曜日に家にきて講義してくれ」。すごいね。
京大の名誉教授の森毅(もりつよし)【数学者】が、「生涯で出会った、ただひとりの天才」と新聞で書いていたんだけど、この天才というのが雨宮一郎。
雨宮一郎に対して彌永昌吉は偉い先生だった。
生徒にむかってね、「何かおもしろそうじゃないか」と思い、「日曜日にゆっくり話してくれ」。そう声をかける。
こういう人はいるんだ。
参考文献
グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち
自分を超えていく生徒…で思い出す映画は、マット・デイモン主演「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」ですね。
印象に残ったのは、主人公の友だちが女の子をナンパしようとしていたところに、一流大学のエリート学生たちが自分たちの頭のいいのを鼻にかけ、主人公の友だちをバカにする場面です。
そこで主人公が、「きみの言ってることは○○という本の何ページから何ページに書いてある。きみの言ったことも○○という本の何ページから何ページまでだ。きみたちが大学で高いカネ払って勉強していることは、図書館で全部タダで学べるんだよ」とやりこめるんです。痛快です、スカッとします。
「おれの友人はな、天才なんだよ!」友だちのセリフ、いいです。最高です。
彌永昌吉(いやながしょうきち)
彌永昌吉(1906年 - 2006年)は日本の数学者。東京大学 理学博士(1936年)。
1942年から1967年まで東大理学部教授を、1977年まで学習院大学教授を務めた。
1970年フィールズ賞 (数学のノーベル賞) 選考委員。1976年勲二等旭日重光章受章。1980年レジオンドヌール勲章受章。1978年、学士院会員に選出。
専門は整数論。単項化や分岐理論など類体論の発展に多大な寄与をなした。
雨宮一郎の著書「微積分への道」
内容説明
デカルト、ニュートンにはじまる近代数学は、科学・工学など外界の事物を数量的に考察する思考の一部として、重要な役割を果たしている。従来の「代数」「幾何」「解析」という分類にとらわれずに数学を一つのものとして理解することがのぞましい。物理的現象を通して微積分の本質を明らかにすることを中心に懇切に解説。数学の確かな基礎力をつける定番テキストの新装版。
目次
第1章 数と函数
第2章 空間の位置を数で表すこと
第3章 落体の運動
第4章 函数の微分と積分
第5章 速度に比例した抵抗のある運動と指数函数
第6章 距離に比例した引力による運動と三角函数
第7章 惑星の運動