ストーカーのお話
前回のブログでちょっとだけ触れた「人間のなか」についての考察です。
人間のなか 川端康成
「人間のなか」はストーカーの話であり不倫の話です。
しかもストーカー行為を働くのは、女性である桃代です。
川端文学には、「みずうみ」(←完全なストーカー小説)や「伊豆の踊子」「処女作の祟り」のように、現代の感覚ではストーカーだと思われても仕方ないよね、という作品群がありますが、
「人間のなか」は、女性目線のストーカー行為を描いた男女の視点を逆転させたお話なんです。
あらすじ
「志村さん、あたしを轢(ひ)き殺せばよかったのに・・・。」
「あぶなかったね、ほんとに・・・。あんなあぶないことをする人もいるなんてね。」と志村は桃代の髪をやさしくなでた。
「命がけだもの。」と桃代は言った。「轢き殺されるか、抱いてもらえるか、あたしはどちらでもよかったの。」
——冬の夜霧の河岸道を走る志村の車の前に、女の姿が不意に浮き出た。あっと志村は目をつぶった。どうして車をとめ、どうして車を河の方へ避けたか、志村はわからなかった。
轢いた手ごたえはなかったが、女をはねたと思った。
志村は車をおりた。
女が道に倒れていた。女は失神しているようだった。
「あっ。三崎さんの奥さんじゃありませんか。」
車の前の明りで顔が見えた。志村はおどろいて、桃代をゆさぶった。
「ああっ。」と目をひらいて、桃代は志村を見つめた。
「志村さんね。志村さん・・・。」
「あぶなかった。ぶっつけませんでしたか。」
志村は桃代を車にかかえ入れながら、
「奥さん、どうしてこんなところに・・・?」
「志村さんの車を待っていたの。」
「なんですって?」
「この河岸を通ってお帰りになるの、わかっていますから。」
「医者へ行きましょう。」と志村は言った。
「医者はいやよ。医者はいや。あたし、どこもなんともないのよ。」
「それじゃ、お宅へお送りします。」
「いや、いや、うちはいやよ。志村さんの車を待ってたんじゃないの。」
「落ちついてください。」
「落ちつかせて・・・。どこかで少し休ませて・・・。」
志村は河岸から町にはいると、小さい旅館を見つけて、車をとめた。
「ああっ、志村さんをつかまえたわ。」
「僕を誘惑するのに、あんな危険をおかしたんですね?」
待ち伏せて車の前に飛び出すなんて
センセーショナルです、劇的です。
愛する男を盲目的に追いかけて来る女の映像が目に浮かびます。
霧のたちこめる夜の道で、ヘッドライトの光の陰で見えにくくなっているであろうナンバープレートを瞬時に読みとり、「志村の車だ」と判断して飛び出すのは現実的に不可能・・・というツッコミは厳禁です。
「あたし、心もからだも、よごれているのよ。」
「このなかになにがいるのか、僕は見たいね。見せてほしいね。」
志村は桃代をむきだして、「こんなきれいなからだが、どうして、よごれていると思うんだろう。」
桃代をむきだして、とは「桃代を裸にして」という意味です。
「見ないでちょうだい。あたしのなかにいる、なにが出て来るかわからないから・・・。」
「いいよ、なにが出ても・・・。なかにいるやつを、みんな追い出そうよ。鬼でも魔でも、みみずでも、とかげでもね。」
思いっきり乱れても大丈夫だよ、という意味かニャ・・・。
志村はやさしく静かに言った。
「どうしてこんなものつけてるの。」
「女だから・・・。」
「ふしぎだねえ。」
おっぱいのことです。
川端康成は、とてもきれいな文章を書くので、さらっと読むだけならなんともありません。
が、
よく読むと、とんでもない内容が隠されている小説家ですね。
追加
おっぱいってふしぎです・・・。