超常現象
すべて誰かの身に起きた、実話です。
秘密の能力
もともとなんとなく勘の良い妻だと思っていた。
「アノ人、なんていう人だっけ」とか「アレが食べたい」とか「アレ、欲しいな」とかいう僕の「アレ」をよくわかってくれた。
会話の流れから判断してくれているのだと思うが、ときどきは「なんでわかったんだ?」と思うようなこともあった。
残業で深夜に帰ったときのこと。
彼女はもう寝ていたので、起こさないようにそっとベッドに潜り込んだ。
少しすると寝返りを打った彼女のからだが僕の肩に乗った。重い。
さらに彼女は肩で僕をぐいぐい押してくる。重いし痛い。
「ちょっと何してんの。重いよ」と声をかけた。
すると彼女は寝ぼけ声で「あなたが折り曲げちゃった名刺を伸ばしてあげてるのよ」と言った。
僕は飛び起きた。
今日、僕は会社で名刺を整理していて、誤って大事な名刺をくしゃっとしてゴミ箱に捨ててしまったのだ。そしてそれを慌てて拾い上げ、一枚一枚伸ばしたのだ。
先に寝てしまっていた彼女が知るはずのないことなのだが。
「なんでそんなこと知ってるの?」と聞くと「知らない」と答えて彼女は眠ってしまった。翌朝、彼女にあらためて聞いても「言ったことは覚えてるけどなんでそんなこと言ったのかはわからない」と言うだけだった。
僕が思うに、彼女は勘が良いのではなく、人の心を読むのではないか?
冗談めかしてそう言ってみるが「そんなこと、あるわけないじゃん」と笑うだけ。
まぁ、そんな能力あったら隠しておきたいわな。
そんなわけで僕はなんだか悪さができない。
埼玉県 西山悟
渋谷君
中学生のときに「コックリさん」というのが流行っていた。
五十音図などが書かれた紙の上に十円玉を置き、数人で囲む。全員が指先で十円玉に触れていると、十円玉は動き出し、質問に答えてくれるのだ。
休み時間になると、ほとんどの子どもたちがやっていたが、私は馬鹿らしいと思っていた。そんなの誰かが意図的に動かしているに決まっている。
そのうち先生から「コックリさん」を学校でやらないようにとお達しが出た。
そのせいで、次にはESPカードというものが出てきた。
なんでも、アメリカかどこかの超能力研究所? (というものが存在すれば、だが) が能力開発のためにつくったというカードで、カードには、〇、△、▢、✕の四種類のいずれかが描かれている。
ひとりがカードを選んでその形を思い浮かべ、向かい合って座ったもうひとりがそのカードの柄を当てるというものだ。
ある日、部活のあとに教室に寄ったら、数人のクラスメートがそれをやっていた。
「たまにはいいじゃん、やろうよ」と言われて、私と、たまたま残っていた渋谷君というおとなしい子が無理やり誘われてカードを渡された。面倒くさかったが、「ちょっとだけ」と言って、私がカードを選んで、その模様を頭のなかに浮かべることに。
それが、二枚、続けざまに当たった。
もしかしたら、野次馬の誰かが渋谷君にこっそりカードの柄を教えているのかも。そう思った私は、誰にも見られないようにしてカードを見た。それでも、また、当たる。
気味が悪くなった私は、カードを取って、そこには描かれていない星型を頭に思い浮かべた。
途端に渋谷君は、悩み始め、
「なんだか、ぐちゃぐちゃして線ばかりって 感じだなぁ」
「✕っぽい?」と周りの野次馬。
「うーん、とがった形。星みたいな」
「そんなのないよ、△か▢か〇か✕の四種類から選ぶんだよ」
「そっかー」と渋谷君。
私は、怖くなって「もう、つまらないから、帰る」と言ってカードをぐちゃぐちゃにして返した。
翌日、先生から、ESPカードをやらないようにというお達しが出て、もともと物静かな渋谷君と私は、それきり話をすることもなくなった。
神奈川県 堵織めぐ
整列
それは出張帰りの夫を成田空港まで迎えに行った帰り道のことだった。助手席に夫を、ベビーシートに子どもを乗せて走っていた。
対向車線を走る一台の車が、左に右に大きく蛇行しながら向かってきた。
あ、この動き、飲酒運転だ。危ないな。こっちに向かって近づいてくる。
ハンドルを切った 。
ぶつかるっ!と目を閉じた瞬間、ぶつかった。衝撃で車が三回転半した。遊園地のアトラクションに乗っているような感覚だった。これで死ぬんだと思った。こんなところで死にたくないと思った。
車のなかからどうやって脱出できたのか、いまでもやっぱり思い出せない。自分も子どもも、そして夫も、夢中で車から逃げ出した。
三人とも助かった、と思ったそのとき、ほんの数秒前まで乗っていたその車から火が上がった。九十度横になったままで。映画ではよく見る光景だった。
言葉が出ないまま、車のなかに目を向けた。
家族で成田山に行ったときに買って、運転席、助手席、後部ベビーシートの頭の部分にひとつずつ、ただなんとなくぶら下げていた「交通安全」の三つのお守りが一列に、ゆらゆら揺れていた。
おかしいな、ぶら下げていた座席の位置を考えると、そんなふうにきれいに一列に並ぶはずはないんだけど。
さらに目を凝らすと、硬い木でできていた三つのお守りは、まっぷたつに、きれいに、そろって割れていた。
お守りに向かって両手を合わせ、深く深く頭を下げた。膝がずっとがくがくしていたことに、そのとき初めて気がついた。
東京都 吉村朋果
超常現象は基本的に信じてません。「なんでコロナを予測、予言できなかったの」なぁんて思っちゃうからです。だけど今回紹介した本の内容は信じている自分がいます。「矛盾してるなぁ」と自分でも思います。
参考文献
嘘みたいな本当の話 イースト・プレス