ワークショップ 声優演技研究所 diary

「なんで演技のレッスンをしてるんですか?」 見学者からの質問です。 かわいい声を練習するのが声優のワークショップと思っていたのかな。実技も知識もどっちも大切!いろんなことを知って演技に役立てましょう。話のネタ・雑学にも。💛

心の内面を描写する川端文学

f:id:seiyukenkyujo:20200109145531p:plain

川端康成「親友」は、少女向けに書かれた小説です。

f:id:seiyukenkyujo:20191016234525p:plain

少女小説とは言っても、そこは川端康成。吾輩のようなおっさんにも楽しく読める傑作ですよ。

f:id:seiyukenkyujo:20210523182034j:plain

あらすじ

f:id:seiyukenkyujo:20200307081457j:plain

めぐみとかすみは中学一年のクラスメイト。

f:id:seiyukenkyujo:20200307081356p:plain

赤の他人ながら、ふたごと見まごうばかりに瓜二つ。誕生日も同じとあって親しくなっていきます。

f:id:seiyukenkyujo:20190825190329p:plain

ある日、二人が多摩川で水着に着替えて遊んでいますと、めぐみの服が盗まれていました。

f:id:seiyukenkyujo:20190827215605p:plain

またある日、めぐみやかすみと仲のいい、哲男の魔法びんも盗まれてしまいます。

f:id:seiyukenkyujo:20200307081136j:plain

めぐみの服と哲男の魔法びんを盗んだのは、不良少年の郁夫でした。

f:id:seiyukenkyujo:20200307081254j:plain

郁夫は、めぐみとかすみの通う中学校の上級生、坂本容子のお兄さんです。

f:id:seiyukenkyujo:20200315231054p:plain

坂本容子とは、少女歌劇の男役を思わせる美少年風で、バレーの選手で、下級生に人気がありますが、お兄さんがすごい不良であり、いろんなうわさのある生徒でした。

読みどころ

不良少年を、単なる〝悪〟として描いていない。

f:id:seiyukenkyujo:20190913095516p:plain

郁夫はなぜ不良になってしまったのか、本当はどんな子だったのかが、きっちり描かれています。

f:id:seiyukenkyujo:20190801181758j:plain

これは「親友」だけではなく、すべての川端作品に通じる理念でもあります。

f:id:seiyukenkyujo:20190801181355p:plain

川端文学には、世間にうまくなじめない、アウトサイダー的人物がよく出てきますが、

f:id:seiyukenkyujo:20200211051645p:plain

なぜそうなってしまったのかf:id:seiyukenkyujo:20190816181454g:plainという「心の内面」「苦悩」「葛藤」をしっかり描いているのが特徴です。

f:id:seiyukenkyujo:20190801181743j:plain

奥が深いんです。心の機微(きび)の描写がハンパじゃありません。うすっぺらな〝善と悪の対立〟のような単純な構成ではないんですね。

f:id:seiyukenkyujo:20190812164644p:plain

大人向けの小説はもちろん、少女向けの小説でも手を抜かずに〝人間の心の内側〟を描いた「親友」。文句なしにおすすめします。 

文庫解説「親友」について 瀬戸内寂聴

 この小説の書かれた頃、*1少女たちは旧(ふる)い道徳に囲まれていて、年の似た青年との交際は学校で絶対禁じられていた。

少女たちは自然に芽ばえてくる異性への憧れをエス<シスターのS>と呼ぶ同性愛になぞっていた。

エス同志は他の少女と仲よくしてはならず、二人は手紙や贈り物で結ばれていた。手紙はよく互いの靴箱の中に入れてあった。

エスどうしには二人以外の少女とつきあうことは禁じられていた。

少年とつきあえない少女たちにとって、エスうしの愛は、まるで生きる目的のように大切だった。

その愛には嫉妬や裏切や三角関係もあり、少女たちは、喜びも悩みもエス愛の中で燃えつくしていた。

男女の愛を禁じられた少女たちにとって、「エス愛」は男女の恋愛の身代わりのようなものであった。

「親友」というのは、エス以前のもっと子供っぽい、それだけに嫉妬や競争の薄い「友情」だった。

川端康成エス愛をよく題材にしたが、それ以前の「親友愛」にも興味を持ったのだろう。

引用
親友 小学館文庫

f:id:seiyukenkyujo:20190908190141j:plain

www1.odn.ne.jp

f:id:seiyukenkyujo:20190804185124p:plain

*1:

「親友」は、昭和25年に小学館が創刊した『女学生の友』に十五回に分けて発表されました。