川端康成「ちよもの」一覧
川端康成には「ちよもの」と呼ばれる作品群があります。成就しなかった初恋の人を扱ったものです。
川端22歳、ちよ15歳の時から交渉があり、翌年結婚話がまとまりましたが、少女の心変わりによって婚約は一方的に破棄され、川端の心に傷痕を残しました。
川端はこの少女に対する恋情をもとにした作品を数多く書いており、川端文学のひとつの分野をなしています。
新潮文庫に【ちよもの】を収録した「川端康成 初恋小説集」(2016.4発行) がありましたので紹介させていただきます。
「初恋小説集」に収録されている【ちよもの】
タイトル | 頁(ページ) |
1 南方の火 | 15-25 |
2 南方の火 (二) | 26-29 |
3 南方の火 | 30-34 |
4 南方の火 | 35-99 |
5 篝火 | 100-123 |
6 新晴 | 124-141 |
7 非常 | 142-170 |
8 生命保険 | 171-175 |
9 丙午の娘讃、他 | 176-183 |
10 丙午の娘讃 | 176 |
11 この頃 | 180 |
12 猫 | 181 |
13 犬 | 182 |
14 野菊 | 183 |
15 五月の幻 | 184-196 |
16 霰 改題前「暴力団の一夜」 |
197-221 |
17 浅草に十日いた女 | 222-234 |
18 彼女の盛装 | 235-274 |
19 水郷 | 275-285 |
20 ちよ | 289-309 |
21 孤児の感情 | 310-332 |
22 青い海黒い海 | 333-359 |
23 油 | 360-369 |
24 時代の祝福 | 370-387 |
25 再会 | 388-416 |
26 人間のなか | 417-430 |
「初恋小説集」に収録されていない、主な【ちよもの】
タイトル | 初出年月 |
無題一 | 未発表 |
日向 | 大正 12.11 |
咲競う花 | 大正 13.7~14.3 |
弱き器 | 大正13.9 |
火に行く彼女 | 大正13.9 |
鋸と出産 | 大正13.9 |
写真 | 大正13.12 |
明日の約束 | 大正14.12 |
冬近し | 大正15.4 |
伊豆の帰り 改題前「恋を失ふ」 |
大正15.6 |
処女作の祟り | 昭和2.5 |
西国紀行 | 昭和2.8 |
海の火祭 | 昭和2.8~12 |
雨傘 | 昭和7.3 |
父母への手紙 | 昭和7.1~9.1 |
文学的自叙伝 | 昭和9.5 |
姉の和解 | 昭和9.12 |
母の初恋 | 昭和15.1 |
再婚者 | 昭和23.1~27.1 |
日も月も | 昭和27.1~28.5 |
離合 | 昭和29.8 |
美しさと哀しみと | 昭和36.1~39.3 |
独影自命 | 昭和45.10 |
「ちよもの」語源
本郷のカフェ・エランで、十三歳の少女 伊藤初代と二十歳の川端は出会った。
初代(ハツヨ)が本名であるが、東北出身なので、ハチヨと読まれることが多く、縮めてチヨとかチーちゃんと呼ばれた。
川端康成 年譜より
大正八年(1919年)二十歳
文芸部委員氷室(ひむろ)吉平のすすめによって第一高等学校『校友会雑誌』第277号(六月刊)に「ちよ」を発表。
高等学校の最終学年、石浜金作、鈴木彦次郎、三明永無といっしょによく盛り場やカフェに出かける。石浜、三明と、本郷元町のカフェ・パリや初代のいるカフェ・エランにしばしば出かけた。
大正十年(1921年)二十二歳
「エラン」の店の代替りによって初代が前年九月、岐阜へ去っていたが、この初代との恋愛、婚約という出来事が秋から冬にかけてあり、そのため九月から十月にかけて、岐阜や岩手県岩谷堂へおもむいた。
この婚約はすぐ破談となった。
この体験に基づいて「南方の火」「篝火(かがりび)」「非常」「彼女の盛装」「暴力団の一夜」「海の火祭」などの作品が書かれた。
大正十一年(1922年)二十三歳
四月から六月にかけて、千代との事件を素材にした「新晴」(ちよもの)を書き、夏、伊豆湯ヶ島で「湯ヶ島での思い出」(百七枚)を書いた。それが後の「伊豆の踊子」のもととなった。
昭和七年(1932年)三十三歳
三月、伊藤初代が川端家を訪ねて来る。
「ちよもの」には、「母の初恋」をはじめ、「ちよ」が、昔の恋人の家を訪ねて来る物語が何本かありますが、あれは事実をもとにしたお話だったんですね。
「天授の子」巻末の年譜より 新潮文庫