「お熱いのがお好き」ウラ話
マリリンの「お熱いのがお好き」は観始めると笑いが止まらない作品である。
だが撮影現場は重苦しい雰囲気だった。
撮影初日からマリリンは遅刻し続けた。それだけではない。監督のワイルダーがオーケーと言っているのに、マリリンは何度も撮り直しを求めた。
ワンカットのために十回も十五回も撮るのは当たり前となった。
なかには五十九回も撮り直したシーンもあった。共演者たちはそのたびに同じことを繰り返さなければならない。
さらに演技が終わるたびに、うまくできなかったと言って泣くために、メイクも直さなければならず、スタッフと俳優の全員が待たされる。
全員がマリリンにうんざりするようになっていった。
だが、ワイルダーはマリリンがやり直せばやり直すほど、その演技がよくなっていくことに気づいていた。
現場は嚙み合わなかった。
撮影が進むにつれてマリリンの睡眠薬の量は多くなっていった。
この映画は公開されると大ヒットした。
批評家たちのあいだでの評判もよく、マリリンは改めて喜劇女優としての才能を認められた。
しかし、試写会で爆笑する観客を見て、マリリンは自分が嘲笑されているのではないかと思い、傷ついていた。
笑われることを嫌がるようでは、喜劇役者は向かない。
マリリンの回路は少しずつ誤作動するようになっていく。
マリリンの「お熱いのがお好き」は、マスコミでの批評はよく、千五百万ドルの興行収入を上げた。
引用
大女優物語 新潮社