自分と違う役を演じるためのメソッドPart 2
自分とは違う人物を演じるには、どうするか。
その方法も、ステラ・アドラーは解説しています。
この練習方法は効果があります。実は私たちも5〜6年前から、この練習をレッスンに取り入れておりました。
アクションを学ぶ 「しゃべる」から「議論する」へ
議論する
近代の演劇は、二つの異なる視点を考えることによって成立するのです。
私がある考えを述べると、相手が反論する。
トルワルは、妻ノラが夫と子供に対する義務を果たすべきだと述べる。ノラは、自分自身に対する義務が先だという。こうして二つの相反するアイデアが提示され、どちらに価値を見出すかは観客次第。劇は「こちらが勝ちです」とは教えてくれない。*1
近代演劇がこうなり始めたのは、ミドルクラス(中流、中産階級)のモラル観に変化が生じたからです。既成のマナーや価値観を、ミドルクラスの人々はただ受け入れるだけだった。
しかし「何事にも表と裏がある。これまでとは違う価値観があるのではないか」という問題提起が求められるようになった。近代演劇の中で、唯一絶対の真実が描かれないのはそういう意味があるからです。
「議論する」時、人は問題の重さと重要性を判断します。「人間が死ななくなったらどうなるか」と「A氏とB氏、どちらの候補が次の大統領にふさわしいか」では、どちらが大事か?問題の大小を判断し、それに従って議論します。
身近な問題でも、大きな話題に引き伸ばすことができます。たとえば「ニューヨークは人が多すぎるなあ」という感想を、「都市部の人口増加によって、人類は発展するか?反対に伝染病の流行や人口の自然減が懸念されるか?」という議論のトピックにできる。
演劇をおもしろくするのは、何であれ意見をもつことが大事。劇で演じる人物の意見と、あなた個人の意見は違っていてかまいません。
都市の人口問題で議論を始めたら、そのトピックに沿って議論を続けること。他のトピックに話をすり替えてはいけません。本題からはずれたり、一般論で話をぼかしてもいけません。
「議論」が成立するには、二人がそのトピックに対して真剣でなくてはなりません。話し合う内容が両者にとって非常に重要であること。そこが他のアクションとまったく違う。ただの時間つぶしでもエチケットでもない。たいしたことのない情報を伝え合うことでもありません。
提示されているアイデアに対し、純粋に興味を持ちましょう。「一人は熱心だが、片方は無関心」では成立しない。俳優として、あなたはどちら側の意見にでも同意できるようになりましょう。一方の意見にしか同意できないのであれば、あなたは自分自身にしかなれない人です。
思考の偏りを直すためには、「妊娠中絶は必要か」のように意見が分かれるトピックで練習するとよいでしょう。
まず賛成派の意見に立って述べる。その後、反対派の意見に立って述べる。
どちらの側に立ってもじゅうぶんに説得力があり、どちらが本当のあなたかわからない、と思われるレベルを目指せば、非常にいいエクササイズになります。
純粋な議論では、相手に勝つ必要はありません。相手を遮る必要もない。相手の意見に無関心ではいけません。常に興味をもって。意見を交わしながら刺激を受けて下さい。
「議論する」には、純粋な相互理解が含まれる。それが、他のコミュニケーション方法との違いです。二人のギヴアンドテイクはリアルであり、自然である。「議論する」ことが近代演劇で最も大切とされるのは、観客の存在を意識するからでしょう。
観客は第三者的なポジションから双方の言い分を理解する。そして劇場を後にしながら、「私ならどうするだろうか?」と考えるのです。
声優演技研究所でも、5〜6年前からこのレッスンをしていたね。
生徒たちの演技に対する理解度は、このレッスンを始めてから間違いなくアップしましたね。
アドラーのメソッド演技だとは知らなかったけど、この練習は効果があるね。私たちが実証済み!
だけどこの練習を始めてから、生徒の数は激減してしまいましたね・・・。
おもしろいレッスンではないからね。お金もうけにはならないけど、演技がうまくなるのがワークショップの目標。間違ってないと思うよ。
二つの異なる視点で描かれたアニメ番組も以前より増えました。このメソッドは声優にとって今後ますます重要になるでしょうね。
参考文献
魂の演技レッスン22 輝く俳優になりなさい! フィルムアート社
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Voice actor laboratory 声優演技研究所