演技の基本を知って、やぶる!
「先輩の家に呼ばれたら本棚に注意しろ。スタニスラフスキイなんかが並んでいたら要注意。信用ならない。そういうやつの演技はおもしろくないし、つまらない」
これはある大物俳優が、(30年くらい前だったかな…) 雑誌か何かのインタビューに答えた内容です。
名前はふせますが、誰もが知っている有名な俳優です。
わたしもこの意見に賛成します。
えっでも、このブログではスタニスラフスキイとかメソッド演技についていろいろ書いてるけど
説明します。
目次
学園ドラマ
むかし流行った「金八先生」などの学園ドラマは「校則(ルール)を守らせるか否か」がテーマのひとつでした。
なにがなんでも校則を守らせようとする代表格といえば、教頭先生です。教頭先生は決められたルールを厳格に守り、違反した生徒には【きびしく対処】しようとします。
それに対して主人公の先生は、ルールに【柔軟な姿勢】をとります。
主人公の先生はルールを知らないわけではありません。ルールを知ったうえで、厳罰ではなく、「柔軟に対処できないか」という立場で行動するのですね。
メジャーリーグ
野球のボール「硬球」は日本とアメリカでは【表面の白い革の素材】が違います。
日本のボールは、にぎった感触がしっとりとしていてソフトタッチです。手になじみやすいのが特徴です。
米国のボールは、硬くてつるつるした感触です。すべりやすいため、日本のボールよりしっかり握って投げないと、狙ったところにコントロールできません。
日本からアメリカに渡った投手が肘を故障しやすいのは、日本にいた時より腕に力をいれて投げざるをえないため負担がかかり、肘を故障するのではないかとも言われています。
しっとりしているほうが投げやすいのなら、手を濡らしたり、ボールの素材を変えればいいじゃないか、という意見もありますが、
手を濡らす行為は禁止されています。ボールの素材についてはどうやら利権が絡んでいるみたいです。それについては脚注「スピットボール」*1で説明します。
話を戻します。
日本の野球選手、松坂大輔投手がアメリカに渡った最初の年、2007年3月21日のパイレーツとのオープン戦で手につばをつけて投げる写真がスポーツ紙の紙面を飾りました。ボールのすべりを止めるためです。
しかしこれはルール違反です。そして松坂選手もルール違反だと知っていてやっていたんです。
松坂選手のコメントは、たしかこんな感じでした。
「オープン戦(テスト期間中)ですから。公式戦(本番)に入る前にいろいろテストして試しておきたいんです。ここまでならOKとか、これ以上やったらダメとか」
わたしの目指しているのは、この姿勢です。
1.ルール (スタニスラフスキイなどの演技の基本) は知らなければいけない。
2.そして、ルールを知ったうえで、どこまでなら許容されるのかを探っていこう。
3.なぜなら、ルールを厳格に守ろうとすればするほど、その人の演技はつまらなくなるからだ。
まとめ.ルール (演技の基本) を知り、どこまでなら許容範囲なのかをさぐり、ある意味ルールをやぶろうとする姿勢があるからこそ、演技は進歩し、おもしろくなるのだと私は考えます。
つまり、守破離(しゅはり)だな。ウィキペディアから抜粋するぞ。
守破離
例「落語」
守:古典落語を忠実に表現することができる。
破:古典落語をより面白くアレンジすることができる、あるいはよりわかりやすく表現することができる。
離:経験を活かし新作落語を作ることができる。あるいは、落語から進化した新たな芸風を作ることができる。
【詳しい説明】
修業に際して、まずは師匠から教わった型を徹底的に「守る」ところから修業が始まる。
師匠の教えに従って修業・鍛錬を積みその型を身につけた者は、師匠の型はもちろん他流派の型なども含めそれらと自分とを照らし合わせて研究することにより、自分に合ったより良いと思われる型を模索し試すことで既存の型を「破る」ことができるようになる。
さらに鍛錬・修業を重ね、かつて教わった師匠の型と自分自身で見出した型の双方に精通しその上に立脚した個人は、自分自身とその技についてよく理解しているため既存の型に囚われることなく、言わば型から「離れ」て自在となることができる。
このようにして新たな流派が生まれるのである。
そして「基本は大切だ」と守破離は説いている。
「本を忘るな」とあるとおり、教えを破り離れたとしても根源の精神を見失ってはならないということが重要であり、基本の型を会得しないままにいきなり個性や独創性を求めるのはいわゆる「形無し」である。
無着成恭は「型がある人間が型を破ると『型破り』、型がない人間が型を破ったら『形無し』」と語っており、これは十八代目中村勘三郎の座右の銘「型があるから型破り、型が無ければ形無し」としても知られる。
今回のブログは、レッスン中に生徒と交(か)わした会話が元ネタになっています。
講師から生徒に一方的に教えるのではなく、お互いに学び合い成長していける場になることを声優演技研究所は目指しています。
追記:補足
今回のブログは、あくまでも「演技・演劇・ドラマの世界においてのみ」に限定させていただきます。
「社会や公共のルールも個人の判断で自由に解釈しても良い」ということになると、世の中はメチャクチャになってしまいますからね。
*1:
「スピットボール」
アメリカのボールは、つるつるしていて投げづらいです。
でも日本のボールはしっとりしているから投げやすい、とお話しましたね。
「だったら手を濡らして投げればいいじゃん、つばをつけて投げればいいんだよ」そう考えた人がいました。
でもこれは今では「スピットボール」と呼ばれて禁止されています。なぜなら手につばをつけて投げると、ボールがとんでもない変化をするからです。まるで野球漫画に出てくる「魔球」のように。
野球漫画ではライバルが猛特訓の末に魔球を100パーセント、ホームランできるようになり、主人公は新たな魔球を生み出すというのが鉄板のストーリーですが、現実の野球で100パーセントはありえません。
カーブやシュートの変化球も、発明された当時は魔球のようなものでした。そしてバッターの技術が向上するにつれ打てるようになってきました。しかし100パーセントの確率でホームランにはできません。
3割バッターといわれるように、7回は失敗するんです。そこに魔球のような変化球をゆるしてしまったらバッターは全く打てなくなり、野球の人気もなくなってしまう可能性があります。
だからスピットボール【つばだけではなく、ワセリン、ポマードなどもだめ。またボールに傷をつけるエメリーボールも魔球さながらの変化をする】は禁止されているんです。
でも米国のボールはつるつるしていて投げづらいんだよね。
実はアメリカの野球のボールは、新品のボールに土をこすりつけてから使います。ボールのすべりを軽減するためです。これは試合前に審判がやる仕事です。(日本の野球では、この作業があるのかどうか、よくわかりません)
お金があまりないマイナーリーグでは、審判はそこの球場の土をボールにつけます。グラウンドの土は、球場によって微妙に違います。ベテランの審判ともなると、ボールにつけられた土の色で、そのボールがどこの球場で使われたのかもわかるんだそうです。
しかしメジャーリーグはマイナーリーグと違ってお金があります。
特別な缶に入った土をすべての球団が使っています。ですからメジャーでは土の色でそのボールがどの球場で使われたのか判別することはできません。
この特別な缶に入った土を販売しているのは一社のみです。
ここに利権の疑いが指摘されています。
1.特別な土を買い続けてもらうためには、ボールはつるつるのままがいい。したがって革の材質は変えない。
2.また、自社製品の土を買い続けてもらうために、メジャーリーグの経営者たちに毎年巨額の献金をしているのではないか、という疑いも報道されています。
球場の土ならタダなのに、わざわざお金を払って土を買うとなると・・・なんかあると思われちゃうね。