登場する前のアクションを考える
あなたの演技が始まるのはいつ?
舞台に出てからでは遅いです。舞台の袖にいる時から、すべては始まっている。「合図をもらったら演技を始めよう」というのではダメ。
舞台に登場する前 (アニメや映画では画面に映っていないとき) 、自分が演じる役の人物は何をしていたのか考えよう、というメソッドを紹介します。
舞台の上では、想像によって作られた状況が存在しています。登場、退場する時はその状況に出入りするということ。
人物は必ずどこかからその状況の中にやってきて、その状況からどこかへ向かって出て行く。
優れた俳優は、舞台の袖でただぼんやりと待機したりはしません。登場する前に準備をします。状況の中に歩いて入っていく理由を考え、それに従って歩いていく。制作スタッフの合図に従って登場するのではありません。
毎回登場するたびに、どこからやってくるのか考えなさい。凝ったこと考えなくていいの。その場所が自分にとってリアルに感じられればいい。細かいディテールを想像しましょう。
また、なぜ登場するかの理由づけも必要。
劇が描く状況に入っていくには、理由が必要です。その理由を頭で考えるだけでは足りない。ただ入っていくだけでなく、意味のあるアクションをすること。
「郵便物を取りに来る」が理由なら、それをやりながら登場する。舞台に登場してから郵便を取りに行くのでは遅い。小銭を財布に入れるなら、そのアクションをしながら登場する。舞台に登場しました、さあ、今から小銭を財布に入れますよ、では遅いのです。幕が上がる前からアクションは始まっているべきです。
リアリティを感じられるよう、小道具を使うといいですね。舞台に出れば、何をしようとごまかしがきかない。
ハロルド・クラーマンが書いた本に「Lies Like Truth (真実のような嘘)」というのがあります。嘘は、俳優であるあなたの手によって真実になる。ドラマという虚構を真実として見せる。それがあなた方に課せられた最大の義務です。*1
虚構のセッティングの中で真実の行動をする。そこに矛盾があるわけです。舞台の世界をリアルに見せるためなら、何でもやってください。
その際に着眼すべきは、アクション。自分の過去の思い出に頼っていたら、劇があなたの思い出語りになってしまう。作家が描く世界とはかけ離れてしまう。
スタニスラフスキイ氏は「俳優は行動を見せるべきだ」と言っています。俳優に対して「感情を出せ」というのはおかしいわけ。
だからアクション動詞の語彙を知り、使いこなせるようになってほしいの。
そうすれば、自分自身のちっぽけな生活感を演技に持ち込まなくて済むようになるでしょう。
頁158-159
魂の演技レッスン22輝く俳優になりなさい! フィルムアート社