メソッド演技、分裂の原因?何事にも表と裏がある。
リー・ストラスバーグと意見が対立し、グループシアター解散の原因となった、「感情の記憶」についてのステラ・アドラーの見解が混じっているメソッドと思われます。
ストラスバーグにとって、過去に体験した感情を再現してみせることが演技の要でした。しかしアドラーは、イマジネーションを働かせることが第一と信じていました。ご参考までに。
俳優は自分の人間性を語るべきか?
「演じるのが楽しくてしかたない。不安になんてならないよ」。そう感じる域に達して下さいね。
俳優はみんな心が不安定だと思い込んでいる人が多い。心が不安定なのは、ヘタな俳優。好んで不安になりたがる、ダメな俳優よ。
ここは気にしなくて大丈夫。アドラーのメソッドには、さっきと今では言ってることが違う箇所があります。その部分は後述します。
「俳優はおのれの不安にこだわり、大切に向き合うべきだ」なんて力説する教師もいるんじゃないかしら。
生徒が不安でいてくれれば、教師が偉く見えるもの。生徒側に芽生えるのは依存心。教師が親代わりか、ひどい場合はセラピストみたいになってしまう。「で、あなたはそのことについて、どう感じているの?」なんて質問したりして。私ならそんな教師、お断りよ。絶対になりたくありません。
私の持論は「作品に登場する人物に視点を置き、分析するべき」ということ。
でも、セラピストになりたがる教師は、俳優自身の人間性を語ろうとする。俳優業はけっして精神の不健康を求める仕事じゃありません。まったく逆よ。
現実の世界ではできないことが、作品の中でできる。それによって人生の意味を深く理解することができるのですから。私が皆さんに伝えているテクニックは「すること(doing)」、つまり行動に焦点を置くものです。俳優個人の気持ちは関係ない。
皆さんのことは私はよく知らないけれど、この中に本物のデンマーク王子は一人もいませんね。「僕の父親はおじに殺された」と思い込んでいる人もいないでしょう。「僕の母は、父さんを殺したおじと再婚しました」っていう人もいないでしょう。
おじに父を殺され、母を奪われた。
これは非常に具体的なシチュエーションです。この状況を深く追求し、想像しなくてはならない。あなた自身の思い出を参考にするだけでは、太刀打ちできません。
「おばあさんが死んだ時、悲しかった」「子どもの頃から飼っていた犬が、車にひかれて死んで悲しかった」。
こうした記憶は、ハムレットが父を亡くした時の気持ちを理解するヒントになるかもしれません。でも、ヒントはただのヒントでしかない。
あなたが記憶している感情には、限界がある。イマジネーションを駆使して作るものとは比べ物にならないほど小さいんです。
シェイクスピアの『ハムレット』を読む時、私たちは主人公ハムレットの内省的なモノローグを連想しがちです。彼が一人で登場し、胸の内を語る。その語りが劇の中心なら、ハムレットの気持ちを想像すれば充分だろうと思いますね。
ところがそれは、ただの一面に過ぎません。
彼は「生きるべきか、死ぬべきか」ただ座って悩むだけの青年ではない。ハムレットは劇中、実に多くのアクションを行います。
狂気を装い、周囲をあざむく。恋人に残酷な仕打ちをする。そして恋人の父親を殺し、彼女の兄と決闘する。学友たちの殺人を仕組む。
これだけの行動を演じるには膨大な準備が必要。また、それぞれのアクションがどんなシチュエーションで起こるのか、まず探らなくてはならないのです。
【「演じるのが楽しくてしかたない」 。心が不安定なのは、ヘタな俳優、ダメな俳優よ。】 は、気にしなくて大丈夫です。アドラーの次のメソッドをお読みください。
課題が難しすぎると感じたら
私が知っている俳優はみな、舞台に出た瞬間自殺したくなるそうよ。「どうやったら劇に命が吹き込めるんだ?」と悩むから。
どんな名優、ベテランでもそうなんです。
なのにあなた方は焦る。すぐに名演技をしてやろうと意気込む。焦っても、嘘っぽいお芝居しかできませんよ。時間をかけて少しずつ、いきましょう。そして、大きな人間になりなさい。
私はちっちゃなハエを追わないの。そういう生き方が嫌いだから。私は父に育てられたけれど、うちの家庭では何事も大きな問題としてとらえた。
答えが見つからなくて、悩んで悩んで一日暮れる。そんな大きな問題に挑戦しなさい。考えることで人間として成長できるような問題を、いっぱい抱えて考えて、それから舞台に上がりなさい。
【「おばあさんが死んだ時、悲しかった」「子どもの頃から飼っていた犬が、車にひかれて死んで悲しかった」。あなたが記憶している感情には、限界がある。】詳しくは、次のメソッドをどうぞ。
なぜ演技レッスンなのに感情を問題にしないのか?
パリでスタニスラフスキイ氏と一緒に練習をした時、氏は想像力の大切さを話してくれました。
舞台の上でイマジネーションを使うことがどれだけ大切か。状況を使うことがどれだけ大切か。
あなたがいる場所はどこ?それによって、あなたが誰で、どんな状態で、何になり得るかが決まる。場所、状況があなたのあり方を決める。そしてあなたに力を与える。やりたいことをする力を与えてくれるのです。
必要な感情はすべて、あなたのイマジネーションから生まれる。劇によって与えられた状況を想像することから生まれる、ということです。「役を生き」、「劇の世界に存在する」のは、状況をリアリスティックに想像できた時、初めてできることなのです。
脚本を読んで理解しても、自分がやるべきアクションがわからない時はどうしましょう?
自分自身の経験に戻って考えてもかまいません。過去に似たような行動をしたことはなかったか?ある感情が起こる前に、どう行動していたか。その時の状況をしっかりと思い出し、どう感じたのではなく「何をしたのか」思い出してごらんなさい。それにつれて感情が自然に起こるでしょう。
「あの時、僕は泣いた」「この時、私はこう感じた」。これらは個人的な過去の体験ですね。
それをそのまま、演技に持ち込むと嘘になります。作品によって与えられた状況は、あなたの個人的な思い出とは違うからです。
使っていいのは感情ではなく、過去にあなたが起こしたアクション。実際の行動からひらめきを得て、作品に描かれる世界の中で行動してください。
ペットのウサギが死んだとか、危篤のおばあちゃんをお見舞いに行ったとか、そういう時の個人的な感情と劇の人物の感情を混ぜることはできないのです。
そしてアドラーは、こうも言っています。
想像でものを描くには
想像の世界でものを見られるようになって下さい。イマジネーションを働かせて何かを創造するということです。
イマジネーションとは、「普段考えてもみなかったことをひょっこり思い出す」能力のこと。生まれてから今までに見たこと、聞いたこと、触れたものはすべて、あなたの記憶に残っている。ただし、あなたは記憶の巨大な貯金箱があることに気づいていない。想像力を豊かにするには、この貯金箱にどれだけのお宝があるか意識すればいいのです。
その箱の中には、すべてが詰まってる。あなたが知っていることを使いさえすればいい。思い出すだけでいいの。日常生活ではけっして使う必要のない宝物を、演劇のために引っ張り出して使いなさい。必要なものは全部、全部あなたの中にある。欠けているものはひとつとしてありません。
忘れないでほしいのは、これはステラ・アドラーのメソッドだということです。リー・ストラスバーグは感情のメソッドを重視し、メソッド演技は分裂しました。
両者ともに西洋演劇界の偉人です。
「何事にも表と裏がある。」
【自分と違う役を演じるためのメソッドPart 2】 で勉強しましたね。
[オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)]
なにが正しいのか悩むのではなく、いろんな考え方があることを知り、柔軟に対処し、判断力を養うことで、自分自身を成長させてください。
参考文献
魂の演技レッスン22 輝く俳優になりなさい! フィルムアート社
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Voice actor laboratory 声優演技研究所