ワークショップ 声優演技研究所 diary

「なんで演技のレッスンをしてるんですか?」 見学者からの質問です。 かわいい声を練習するのが声優のワークショップと思っていたのかな。実技も知識もどっちも大切!いろんなことを知って演技に役立てましょう。話のネタ・雑学にも。💛

映像が思い浮かぶ文章とは

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川端康成の文章は映画的だ、映像が脳裏に浮かんでくる、といわれます。*1

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これなんか正にそうですね。 

化粧と口紅 川端康成

上野駅

そこに発車を待っている汽車で、留伊子達のレヴュー団は旅立つのだった。

 

陸橋の上からは、そのトタン屋根から頭を少し出した機関車だけが見えて、プラット・ホームのあわただしい下駄の音が聞えて来た。

彼女は上野公園を歩いているうちに、早く約束の陸橋へ来てしまったのだった。

 

夏子は足の下まで、白い煙にもうもうとつつまれてしまった。

「煤煙(ばいえん)くさい天女、虹のかけ橋か紫の雲のかわりに、コンクリートの橋に乗った。」

そんなことを思って笑いながら、しかし、目も細めず、息もふさがず、近代の機械が吐き出す霧のなかに立っていた。

 

石炭の煙のにおいが、胸に満ちて来る。

ガソリンのにおいのはかなさとはちがって、むせぶような人恋しさ、それになんにも見えない彼女の足の下を、次第に力強く早まってゆく車輪のとどろきが、どっどっと血管に流れ込んで来るようだ。遠くで花火が聞える。

 

石炭の霧はもう消え去って、客車の屋根が恐ろしい甲蟲の列のように動いていた。

八時何分かの仙台行だ。留伊子も乗っているのだ。

 

線路にはかなく揺れてゆく窓の明り、長い旅路に黒ずんだ屋根、夏子は留伊子の身の上がわがことのようにいたましかった。

ふと涙っぽい娘心にとらわれていると、黒い列車の屋根は陸橋の下に吸い込まれて行って、そのあとの線路に、信号燈が桔梗色にぽつりぽつり咲いていた

参考文献

川端康成全集 第五巻 新潮社

ノーベル賞なのにィ こんなにエロティック? 文豪ナビ川端康成 新潮文庫

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www1.odn.ne.jp

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*1:

川端の作品に映画的な技法が見られることはしばしば指摘されるところだが、実際、よく映画化された。

その代表作が『伊豆の踊子』だろう。これまでに六回。しかも、踊子の薫(かおる)役は、すべて当時のアイドルばかりである。

青春の恋心を綴(つづ)った『伊豆の踊子』から。

 

道がつづら折りになって、いよいよ天城峠(あまぎとうげ)に近づいたと思う頃、雨脚(あまあし)が杉の密林(みつりん)を白く染めながら、すさまじい早さで麓(ふもと)から私を追って来た。

 

何気ない書き方のようだが、一瞬にして情景が浮かんでくる。それも目で見る視覚的映像というだけでなく、伊豆の峠の空気感までが伝わってくる。

ノーベル賞なのにィ こんなにエロティック? 文豪ナビ川端康成新潮文庫より