〝自己責任論〟と〝最低賃金の引き上げ〟
『荻上チキ・Session』で〝自己責任論〟と〝最低賃金の引き上げ〟について分かりやすく解説されていました。
引用させていただきます。
早稲田大学教授の橋本健二さん
自己責任という言い方にはですね、まったく別の問題もあると思うんですね。
実はですね、自己責任という言葉が日本で広く使われるようになったのは、比較的最近のことでして、1990年代の終りあたりです。
この時期、なにがあったかといいますと、いわゆる「金融ビッグバン」といいまして、金融の規制緩和が行われてですね、「ハイリスク・ハイリターン」の金融商品が自由に売ることが出来るようになったんですね。
したがって、こうなるとですね、おカネを持ってる人が、ハイリスクの投資をして、おカネを失ってしまうということが当然おこってきます。
こういう事態にそなえるために、「自己責任」という言葉が使われるようになったんです。
「投資するのは自己責任だよ」と。
投資によってですね、財産を失うことになっても「それは自己責任だ」と、いうようなことが、よく言われるようになったんですね。
ただですね、これは、「貧困は自己責任だ」という問題とは、まったく異なるものなんですね。
つまり、投資の場合は、おカネを持っていて、これを自由に使える人が、自由に使ったその結果として、ソンをする、ということですから
この場合はたしかに、自己責任という言い方は、成り立つんです。
なにしろ、選択する自由がある。
使い方を決める自由があって、その結果が跳ね返ってきたわけですからね。
で、しかも、その結果と原因の間にはですね、あきらかな〝因果関係〟があります。
この場合にはですね、自己責任という言い方は成り立つわけです。
しかしですね、貧困に陥(おちい)るというのは別に、自分の自由な選択によるものでは、ありません。
たとえば「就職に失敗した」とかですね、
あるいは「雇用が縮小して〝非正規の職〟しかなかった」とかですね。
「会社が倒産した」とか
今回のコロナみたいな出来事によって、企業の収益が下って、立ち行かなくなって、社員がクビを切られる、とかですね。
これは、別に、自分が選択した結果ではないんですね。
これは「社会の側で起こったこと」
不可抗力をふくめてですね、社会の側で起こったことが原因であるわけですから、自己責任という言い方は、まったく成り立たないんですね。
まあ、たしかに中には、あきらかにサボっていた、なんの努力もしなかった、という原因で貧困に陥る人、極わずか「いる」とは思いますけれど、
そうした「例外的なもの」を持ち出して、貧困を自己責任で片付ける、というのは、決して許されることではない、あってはならない、ことだと思います。
荻上チキさん
社会問題を個人化して切り捨てる、というために、この自己責任という言葉が使われがちであるというところ、そこは注意したいところですよね。
橋本健二さん
社会問題を個人のものとして切り捨てる反面、この原因を生み出した人々、
たとえば、「非正規労働者をどんどん拡大してきた人」「低賃金の労働者をどんどん増やしてきた人々」の
責任を免罪することにもなるんですね。
その両方の意味で、自己責任(という言葉)には大きな問題があると思います。
最低賃金の引き上げ
荻上チキさん
これからたぶん、多くの方々が「政策の見比べ」というものを行うと思うんです。選挙の時期なので。
そんな中で、どんな政策が必要だといえるのでしょうか。
橋本健二さん
はい、わたしはですね、格差とか再配布の問題に関しては、「自分一人の利益を考えるのではなく、社会全体の利益を考えてほしいな」と思います。
たとえば再分配を強めて、格差を縮小するという政策はですね、恵まれた立場にある経営者とか新中間階級から見ると、「自分たちの税金が増えて、他の人に回っていく」ということになりますから、〝不利〟なんですよね。
だから直接的な利益から言うと、「反対」ってことになりかねない、
しかしながら、それによって貧困の問題が解消する
それから格差の拡大によって景気が低迷している現状を変えることが出来る、
さらには格差の拡大によって人々の健康水準が低下するとか
あるいは犯罪が増えるとか、そういうような問題も防止できる。
そういう意味からいいますと、
現在の自分の利益だけで考えないほうがいい、というふうに思います。
それからもうひとつ言いますと、
自分は今、こういう貧困問題とは無縁だ、と思っている人、
正規労働者や中間、新中間階級の人から見てもですね、
もしかすると自分の子供が、現状では、ひじょうに就職難の状況があって、しかもコロナでですね、ますます就職が難しくなっている、
こういう状況ではですね、ほっとくと自分の子供が貧困層に転落するって可能性、十分あります。
さらに言えば、近年、定年退職した後で、貯金も年金も少ないために、再就職で非正規労働者になる高齢者がひじょうに増えてます。
そうしますと、自分も将来、非正規労働者として働かなければいけなくなるかも知れないと考えれば、
非正規労働者の待遇をよくするってことは、自分の利益にもなるんですね。
自分の子供が非正規労働者になっても、ちゃんと給料がもらえる社会、
自分が定年退職後に非正規労働者になっても、ちゃんと給料がもらえる社会にするってことも見通して
そこまで見たうえで考えていただきたいな、と思います。
ひじょうに重要なのは、最低賃金の引き上げだと思います。
つまり現在、非正規労働者の多くは最低賃金ギリギリの水準の賃金しか受け取っていないんですね。
したがって、これらの人びとの賃金を引き上げて、非正規労働者になっても、ちゃんと生活ができるというふうにするためには、最低賃金の引き上げが決め手になります。
これが一番重要だと思います。
さらにいうと、昔から、日本人は働きすぎだと、労働時間が長い、というふうに言われてます。
労働時間が長いということは、それだけ、雇われる人の人数、数が少なくなってるということなんですね。
で、この労働時間を短縮させれば、雇われる人の頭数、人数が増えます。
そうすれば非正規労働者が正社員になったり、
あるいは非正規労働者が人手不足になって、賃金が必然にあがっていく、ということが起こって
格差が縮小すると思います。それが決め手になるでしょうね。
「たまむすび」町山智浩さん
おなじ日の「たまむすび」町山智浩さんの解説によると、アメリカ・カリフォルニア州の最低時給は、日本円にすると1600円だそうです。
アメリカの移民労働者、メキシコ人たちは、日本よりはるかに高い1600円というカリフォルニア州の最低時給で働いているんですね。
このままでは、日本に来て働いてくれる外国人労働者はいなくなるかも、と町山さんは語っておられました。
『週刊ダイヤモンド』8月28日号の第1特集
日本の最低賃金はG7(先進7カ国)では実質的に、最下位の状況である。
「日本の仕事は安すぎる」
中国の下請けが逃げている
引用
『週刊ダイヤモンド』8月28日号の第1特集より
日本の実質賃金
いろいろ考え続けていきたいです。